【1月30日 AFP】ベラルーシで前年12月に行われた大統領選で、アレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領の圧勝に対し不正選挙だと抗議した対立候補ら数十人が身柄を拘束された。彼らは現在も拘束されたままだが、一連の騒動の最大の犠牲者は3歳の男の子だ。

■突然消えた両親

 ダニク・サニコフ(Danik Sannikov)君は「ママとパパには怒っているんだ」と話す。これまで両親がダニク君に何も言わずにこんなに長く留守にすることはなかった。ダニク君の父親は大統領選に立候補した野党候補の1人、アンドレイ・サニコフ(Andrei Sannikov)氏。母親はロシアの反体制派紙ノーバヤ・ガゼータ(Novaya Gazeta)のミンスク(Minsk)支局に勤めるジャーナリストのイリーナ・ハリプ(Irina Khalip)氏だ。

 2人は現在、大統領選が行われた12月19日に首都ミンスク(Minsk)で起きた暴動を扇動したとして、旧ソ連時代の国家保安委員会(KGB)の後継機関であるベラルーシ国家保安委員会の収容施設に拘束されている。2人の運命も健康状態も、家族には分からない。ハリプさんの家族はこの1か月間に1通しか娘の手紙を受け取っておらず、その手紙の内容から判断するに、ハリプさんが家族からの手紙を読んでいないことは明らかだという。

 ベラルーシ国営メディアは前週、ルカシェンコ大統領が就任式に6歳の息子コーリャ(Kolya)君を同伴し、3時間にわたって庶民派パフォーマンスを披露する様子を放映した。

「彼(大統領)は息子をどこにでも連れ歩く。他の子どもたちは両親を奪われて、みなしごとして育たなければならないというのに」と、ダニク君の世話を引き受けているハリプ氏の父ウラジミール(Vladimir Khalip)さんはAFP記者に語った。

■あと一歩で孤児院に、背景に政権の「悪意」?

 ウラジミールさんの妻でダニク君の祖母にあたるルシーナ(Lucina)さん(74)は、当局にダニク君の保護者と認められるまでの出来事がトラウマになっている。ダニク君はもう一歩で、保育園から当局によって連れ去られてしまうところだったのだ。「保育園から電話があり、ダニクが両親の保護下にないからと児童保護施設が同行を求めているというのです」

 ルシーナさんは保育園に駆けつけ、ダニク君の保護者として申請した。ダニク君の両親がいなくなってまだ1週間もたっていない、クリスマスイブのことだった。

 保護者として認められるため、ルシーナさんは健康診断を受けなければならなかった。また、当局者2人が家中をチェックして回り、ダニク君のためのおもちゃや本がたっぷりあることを確認した。ルシーナさんは、ダニクくんが家族の元に置かれたのは、誰かがベラルーシ当局と交渉した結果だと思っている。

 だが、幾らおもちゃをたくさんもらっても、たった3歳の子どもにとって両親の不在はひどく辛いものだ。「あの子の毎日の習慣はおかしくなって、午後4時に寝たり午後8時に寝たりするようになった」とルシーナさん。

 ルシーナさんによると、ルカシェンコ大統領はイリーナ・ハリプ氏を自陣営に加えたいと考えていた。報道官の役職を提示したが、ハリプ氏は断った。ダニク君を孤児院に入れようとした動きの背景には、このことをめぐる個人的な憎悪があったとルシーナさんは考えている。

 ダニク君の両親は今、有罪になれば最大で禁錮15年が科される可能性がある。ルシーナさんは幼いダニク君に両親の居場所を気づかせないよう苦心している。前週、児童保護当局の職員から「パパとママがどこにいるか、あの子に教えましたか」と問われた彼女は、次のように答えた。「いいでしょう。あの子が大きくなったら、どうぞあなたが教えてやってちょうだい」

(c)AFP/Tatyana Kalinovskaya