【1月25日 AFP】イスラム教シーア(Shiite)派組織ヒズボラ(Hezbollah)の閣僚一斉辞職で連立政権が崩壊したレバノンでは24日、サード・ハリリ(Saad Hariri)暫定首相率いる与党・未来運動(Future Movement)から、ヒズボラがクーデターを起こして自らの推す候補を新首相にしようとしていると非難する発言が相次いだ。また、イスラム教スンニ(Sunni)派住民の多い地域では抗議デモが行われた。

 スンニ派が多数を占める地域では、スンニ派の間で支持が強いハリリ氏に代わって富豪のナジブ・ミカティ(Najib Mikati)氏(55)が新首相に就任する可能性が高まったことに抗議するデモが行われ、デモ隊はタイヤを焼いたり、道路を封鎖したりした。

 ヒズボラはミカティ氏の新首相指名に向けて国民議会(128議席、一院制)の過半数を押さえている。ミシェル・スレイマン(Michel Sleiman)大統領は25日に各会派と会談した後に新首相を発表する予定になっている。

■各地で反ヒズボラ、反イランのデモ

 レバノンのスンニ派の中心地の1つで、ミカティ氏の拠点でもある北部の港湾都市トリポリ(Tripoli)では、デモ隊が「スンニの血は煮えたぎっている!」「ヒズボラは悪魔の党!」などとスローガンを叫びながら行進した。

 欧米が支援する与党・未来運動のムスタファ・アルーシ(Mustafa Alloush)元議員は、イランが支援するヒズボラが「クーデター」を起こして、イラン型の宗教政府を打ち立てようとしていると批判した。

 アルーシ元議員は「ヒズボラのルールをレバノンに押しつけようと企てられたクーデターに対してレバノン国民は、平和的な抗議を通じてイランの統治下に置かれることへの怒りと拒否を表明してほしい」と呼びかけた。また、トリポリのモハメド・カバラ(Mohammed Kabbara)議員は25日、「スンニ派と国に対するこの攻撃を許してはならない」と述べ、デモを呼びかけた。

■特別法廷めぐる対立で連立政権崩壊

 ヒズボラは1月12日、ヒズボラの全閣僚を内閣から引き揚げたと発表した。ヒズボラは、2005年に起きたハリリ首相の父ラフィク・ハリリ(Rafiq Hariri)元首相暗殺事件の真相究明のために国連(UN)が設置したレバノン特別法廷(Special Tribunal for Lebanon)をめぐり、以前からハリリ首相と対立していた。

 ヒズボラは特別法廷がヒズボラのメンバーの暗殺への関与を認定すると考えているため、ハリリ首相に同法廷を否定するよう圧力をかけていた。

■ヒズボラ主導の政権に欧米・イスラエルは警戒

 ヒズボラが新首相に推すミカティ氏は、南アフリカの通信大手MTNグループ(MTN Group)の大株主で、仏ファッションブランド、ファソナブル(Faconnable)を所有し、不動産投資も手がけている。米経済誌フォーブス(Forbes)は2010年、同氏の資産総額を25億ドル(約2000億円)と推計しており、レバノンで最も裕福な人物の1人だ。

 ヒズボラの推す人物がレバノンの首相になればイランの影響力が強まり、レバノンがイスラム原理主義組織ハマス(Hamas)が実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区(Gaza)のようになるとして、国際社会、とりわけイスラエルは警戒している。

 ヒズボラをテロリスト組織に指定している米政府も、フィリップ・クローリー(Philip Crowley)米国務次官補(広報担当)が「ヒズボラが政権の主導権を握れば大きな懸念材料になるだろう」と述べるなど、今後の展開に懸念を示した。

 しかしヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ(Hassan Nasrallah)師はこれらの主張を否定し、新政権ではハリリ氏の政党との連立も模索すると語っている。一方、ハリリ氏は、ヒズボラの推す新首相のもとで連立入りすることはないと表明している。(c)AFP/Jocelyne Zablit