【1月24日 AFP】「食事のまずさ」に定評のある英国で、料理のレシピ本が次々とベストセラーになり、テレビ欄には料理番組があふれ、人気シェフはセレブ扱いに――。各家庭の台所はまだ活用されているとはいえないものの、これらの現象はここ数年で英国人の食習慣が大きく変貌したことを示している。

■ベストセラー料理本、「見て楽しむ」だけ?

 英国人のグルメ志向は急速に進んでいる。テレビ番組の人気シェフ、ジェイミー・オリバー(Jamie Oliver)氏の最新のレシピ本がわずか3か月で100万部以上を売り上げた事実は、グルメトレンドを象徴するものだ。書店関連データを収集するニールセン・ブックスキャン(Nielsen Bookscan)の統計によると、『Jamie's 30-Minute Meals(ジェイミーの30分料理)』は前年12月末の時点で、1998年の統計開始以来最大のノンフィクション部門ベストセラーとなった。

 一方で、こうしたレシピ本や料理番組の人気は、各家庭での料理習慣に直結するものではないと指摘する専門家もいる。

 シティ大学ロンドン(City University London)のマーティン・カラハー(Martin Caraher)教授(食糧政策学)は、「クッキングへの興味が増しているわけでもなく、食事の中身が話題に上ることもほとんどない」と語る。「むしろ、食欲をそそるような写真や文章にひきつけられているんです。英国人は人気シェフたちに注目はするが、彼らを真似て料理をしようとは思っていない」 

■不況で変わるか、「台所」事情

 しかし、経済の低迷で、英国人も家計を切り詰めながら生活している。料理ブロガーのマリー・レイナー(Marie Rayner)さん(55)は、こうした厳しい台所事情を受けて、より多くの人々が本棚でほこりをかぶっている人気シェフたちの料理本を活用し、自宅で料理をするようになって欲しいと願っている。「人気シェフたちは家庭でも、さほど手間も予算もかけずに美味しい料理を作れることを教えてくれます」

 10年ほど前にカナダから英国へ移住してきたレイナーさんは、「英国の食事はひどい、まともなのはロースとビーフくらいだと聞かされてきました」。ところが、実際のところ英国の食事はおいしく、驚かされたという。
 
 レイナーさんは英国料理に対する根強い偏見を払拭すべく、ブログ「イングリッシュ・キッチン(The English Kitchen)」を立ち上げ、1つずつ英国料理の作り方を紹介している。「英国の人たちだって、ばかじゃない。おいしい食事とまずい食事は見分けるし、料理のうまい下手だってわかっているんです」

■レストランの質は確実に向上中

 レイナーさんの見方が正しいことは、グルメたちのバイブル、高級レストラン格付けガイドブック『ミシュランガイド(Michelin Guide)』が証明する。最新版では4軒の英国のレストランが三ツ星を獲得。このうち2軒は、テレビにも出演する人気シェフが経営する店だ。

 こうした人気シェフたちが「英国の料理のレベルを引き上げた」と評価するのは、自身もロンドンで高級レストランを経営するジャンクリストフ・スロウィック(Jean-Christophe Slowik)氏。この10~15年ほどで、英国料理は「驚異的な飛躍」を見せたといい、特に各地方の名物料理に目だって進歩が見られるという。

 とはいえ、英国料理に長年のしかかってきた悪評は「重い荷物。返上するのは、なかなか難しいだろうね」とスロウィック氏は認めた。(c)AFP/Claudia Rahola