【1月23日 AFP】高速道路を歩く人がトラックにひかれ、自転車に乗る人は車に追突されて宙を舞う――中国の交差点には、突然の事故死の危険性が潜んでいる。

 世界の自動車メーカーは世界最大の人口を誇る中国での自動車販売台数の増加に歓喜しているかもしれない。しかし、中国では毎日数百人規模の人びとが交通事故で死亡し、しかもその一部はテレビ番組で放映されているのだ。

■衝撃の事故映像番組

 北京(Beijing)の地元テレビは、事故の中でもとりわけゾッとする事故映像を繰り返し放送している。北京の一都市だけでも交通事故死者数は非常に多く、新米ドライバーたちを教育することが狙いだという。

 この番組は、北京電視台(Beijing Television)と北京市の交通警察が共同制作する「紅緑灯(信号機の意味)」。朝と夕方の通勤時間帯と夜の計3回放送されている、気の弱い人にはオススメできない番組だ。

 番組冒頭のホストによる紹介が終わると、巨大なトラックが自転車に乗った人をひく瞬間が放映された。自転車に乗った人はトラックのフロントタイヤにひかれ、リアタイヤに頭部を潰される。

 次の映像では、北京の大通り、天安門通りで観光バスが歩行者をひく。

 これらの衝撃映像は繰り返し再生される。スローモーションでも再生され、北京市警の交通警察官が事故の起きた原因や違反した規則の解説を加える。

 ほかにも、オレンジ色の制服に身を包んだ消防隊員らが、大破した車から乗員を救助しようとチェーンソーで車を切り裂く場面なども定期的に放映される。多くの場合、救助された人はすでに息をしていない。

 番組を見ると、中国のドライバーや歩行者、自転車に乗った人たちが、いかに基本的な交通規則に注意を払っていないかが一目瞭然(りょうぜん)だ。

 交通事故番組の映像を視聴できるウェブサイトでは、動画のコメント欄で、あるユーザーが「このドライバーたちにはモラルがない。まったく交通に注意を払ってない」と書き込んでいた。

 北京の2010年の新車登録台数は過去最高の80万台で、1日当たり2200台の新車が登録されたことになる。新米で経験の少ないドライバーたちが急増しているといえる。北京市の総自動車登録台数は計480万台に上った。

■事故死減少の公式発表、しかし…

 警察発表によると、中国の2009年の交通事故件数は26万5000件、死者数は7万人近い。1日当たり190人が死亡しているが、2005年の事故件数45万件、死者数9万9000人と比較すると大幅に減ったといえる。中国の警察当局によると、2005年が死者数のピークだった。

 しかし、世界保健機関(WHO)が、1月号の機関誌でこの中国警察の統計に異議をとなえた。

 保健当局が集計した交通事故死者数は警察発表のおよそ2倍に上っており、さらに、死亡届に基づくと、警察発表とは逆に2002年~07年までの死者数は減少しておらず、むしろ増加していると指摘した。

 WHOは、警察当局が交通安全対策の成功を演出しようとしているとして、中国当局に数字の食い違いを修正するよう求めた。(c)AFP/Robert Saiget