【8月3日 AFP】フランスの村で新生児の遺体8体が見つかった事件で、殺害容疑がかけられている母親(45)の弁護士が主張し、注目されているのが「妊娠否認」と呼ばれる精神症状だ。

 この「妊娠否認」は、フランスでは幼児殺害事件の際に弁護側が、責任能力を問えないことを主張するために、これまでにも持ち出されてきた。それは正当だと、ナント(Nantes)にある産婦人科病院の精神科医、ソフィー・マリノプロス(Sophie Marinopoulos)医師は語る。「わたしが知っている限り、子どもを殺すために妊娠しようとする女性はいません。これは精神的症状なのです」

■3種類の妊娠否認

 「妊娠否認」を専門家は3種類に分類している。第1の種類は「広汎性否認」と呼ばれるタイプで、米ボストン(Boston)のブリガム婦人科病院(Brigham and Women's Hospital)のローラ・ミラー(Laura Miller)医師によると「感情面の距離だけではなく、意識からして妊娠をまったく認識していない」状態だ。

 次が精神病性否認で、時に虐待の結果も含む深刻な精神障害を抱えた女性が、妊娠していることを自分で認めない状態を言う。

 3番目の感情的否認は、頭では妊娠していることを理解していても、「妊娠していないように考え、感じ、振る舞い続ける」状態を指す。例えば胎児の健康に悪影響を及ぼすだろうドラッグの中毒に陥っている女性が妊娠すると、罪の意識を和らげようとする心理状態が生まれ、この症状が起こることがある。

 すべてに共通して、体重の増加や胸の張りの変化、あるいは陣痛でさえも患者の精神が認めず、現実と異なった解釈をしようとする。

 また今回のフランスの容疑者のように、妊娠した女性が過度の肥満だった場合には、パートナーや家族も妊娠に気付きにくい。

■米調査では500人に1人

 米ケース・ウエスタン・リザーブ大学(Case Western Reserve University)、スーザン・ハッターズ・フリードマン(Susan Hatters Friedman)氏は、英心身医学誌「サイコソマティック・メディシン(Psychosomatic Medicine)」に掲載された研究で、1998~2003年の5年間に同大病院で行われた3万1475件の出産について調査した。

 妊娠否認の症状を示しているかどうかは、胎児検診をまったく希望しないことを主要な判断材料とし、そのほかの基準と合わせると合計61例、500人に1人の割合で妊娠否認とみられる女性がいた。

 出産するまでまったく妊娠していることに気付かなかったという完全否認の例はもっと少なく、2500人に1人だった。新生児を殺害した例はなかった。また家族や友人に妊娠した事実を意図的に隠すという「妊娠の秘匿」という事例は、20例みられた。ドイツやフランスの調査でも、この米国の調査と同様の数字が現れている。

 また米国の調査で予想に反したのは妊娠を否認する女性の人物像で、まだ経済力がなく両親と同居する10代の少女という患者像を裏切り、20代に入り、勤めもしていて、虐待的なパートナーをもったこともない女性のほうが多かった。

 妊娠の否認に関するフランスの学会で理事長を務めるフェリックス・ナバロ(Felix Navarro)医師は、「年齢も教育水準も社会的立場も関係なく、さまざまな女性に起こる」症状だと述べている。(c)AFP/Marlowe Hood

【関連記事】フランスの「乳児8遺体」、母親が自白 周りは妊娠気づかず