【2月4日 AFP】紀元前後にさかのぼる古文書、「死海文書(Dead Sea Scrolls)」に触れることを世界で唯一許されている4人の女性たちが、ピンセットとブラシ、果てなき忍耐を武器に、無頓着に張られた粘着テープと格闘している。

 「仕事だとは思っていません。天の恵みだと思っています」と、手術用メスのような道具を動かしながら、タンヤ・トライガー(Tanya Treiger)さんは言う。扱っているのは死海文書の小さな断片。その輪郭をゆっくりと、落ち着いて慎重になぞっていく。

 約半世紀前にイスラエルの死海沿いで発見されたこの著名な文書の修復保存という大役を担い、トライガーさんら4人は全員、旧ソ連から移住してきた。

 彼女たちの仕事は、公開されている文書の展示状態を理想的に保つこと、そして、時間の経過のみならず過去の保存方法の誤りから傷んだ断片数万枚を復活させることだ。数十年前、死海文書の断片を合わせようとして張られた粘着テープ。過去18年間、4人は来る日も来る日もこのテープをはがすために辛抱強く取り組んできた。

 「当時はセロハンテープが発明されたばかりだったから、名案だと思われたのでしょう」とイスラエル考古学庁(Israel Antiquities AuthorityIAA)の美術工芸品修復局長、Pnino Shor氏は解説する。「しかし1960年代には、セロハンテープの使用は大失敗だったことが明らかになったのです。テープの成分が文書にしみ込み、羊皮紙が分解し始めたのです」

 修復家たちはエルサレム(Jerusalem)のイスラエル博物館にあるIAAの狭い修復スタジオに詰めて作業している。全断片の修復完了までには少なくともさらに18年はかかると見込まれている。

 しかも「彼女たちがやっているのは、まだ応急処置でしかない」とShor氏は言う。指さす方向では1人の女性が、テープの残留物を取り除くために有機溶剤を使ってそっと断片をたたいている。「運が良ければ文書は生き返り、書かれている文字ももっと鮮明になるでしょう」

 テープの残留物まできれいに除去された断片は、中性紙の台紙に乗せて保管箱に入れられる。展示される断片は、ポリエステル製の網状の小袋に入れられ、ポリカーボネートの板にはさまれる。(c)AFP/Patrick Moser