【12月9日 AFP】2010年サッカーW杯南アフリカ大会(2010 World Cup)の会場となるヨハネスブルク(Johannesburg)のスタジアムの目と鼻の先で、古くから続く伝統医療の世界を垣間見ることができる。

 ここは、ファラデー(Faraday)の薬市場。木の幹をすりつぶした粉、日干しにしたトカゲ、グレープフルーツほどの大きさの球根などがうず高く積まれている。シマウマのひずめもある。高血圧から悪夢まで、さまざまな症状に悩まされている人々が、助けを求めてここに詰めかける。

「この市場のことを知らない人はほとんどいない。非常に重要な場所です」と、ヨハネスブルク近郊のソウェト(Soweto)に住む伝統治療師、モレフェさんは語った。

 伝統医療は、一流の治療を受けられるが治療費は高い都会の民間病院と、治療費は安いが質の悪い州立病院の間で医療が二分される同国において、活況を呈している。

 伝統的な治療薬に頼っている国民は、人口4800万人のうちおよそ2700万人。2007年の売上高は少なくとも29億ランド(約340億円)で、伝統医療に携わる人は13万人に達している。

 その一方で、急速な経済発展を遂げる同国の「負の側面」とも位置づけられている。ヨハネスブルクの街頭には、「エイズが治ります」「ペニスが大きくなります」「すぐに金持ちになれます」といった、利益優先のいんちきな広告があふれている。

■伝統医療と現代医療の相乗効果を目指して

 こうしたマイナスイメージは、植物由来の薬の効能に対する無知に根ざしていると、南アの最高学府・ウィットウォータースランド大学(University of the Witwatersrand)のムウェル・グンジザ(Mweru Gundidza)教授(薬理学)は指摘する。

「伝統的な医療は、基本的に、医学の礎となったものだ。実際、現代の薬の60~70%は植物由来だ」と語る教授は、最近、伝統治療師の信頼性を高めるための新たな試みを始めた。大学に、伝統治療師のトレーニングコースを初めて開設したのだ。

 臨床に基づいた診断と治療法に頼る西洋式の医学と、先祖代々の教えに基づいて(治療個所に集中するのではなく)総体的に、そしてスピリチュアルの要素も多分に含んだ伝統医療。これら2つの間の溝をせばめて、診断と予防の診療知識を高めてもらおうという狙いがある。

 このトレーニングに参加した伝統治療師の満足度は高い。エイズの治療を得意とする前述のモレフェさんも、2日間の講習を無事終えた。(c)AFP/Justine Gerardy