【7月8日 AFP】「うなぎのエリック」こと赤道ギニアの水泳選手エリック・ムサンバニ(Eric Moussambani)、ジャマイカのボブスレー・チーム――五輪は数々の「憎めない」敗者たちを生んできた。だが、果たして彼らは五輪の精神を体現した存在なのか、はたまた世界のトップアスリートたちと肩を並べるにはふさわしくない憂うべき存在なのか、意見は分かれるところだ。

■五輪数か月前に水泳を始めた赤道ギニア代表

 赤道ギニアのムサンバニ選手は、これまでの五輪の歴史の中で最も有名な敗者だ。2000年のシドニー五輪、100メートル自由形の予選。ほかの2人がフライングにより失格してしまったため、1人で泳ぐはめになったムサンバニ選手は、泳ぐのもやっとというフォームで粘り強くゴールに向かう。会場の大声援を受け、ライフガードらに注意深く見守られながら、1分52秒72という、他の代表選手より1分も遅いタイムでゴールする。

 五輪に参加する数か月前に水泳を始めたばかりで、50メートルプールを見たこともなかったという彼は、この泳ぎで一躍有名になり、短期間ではあるが水着メーカーとのスポンサー契約を結ぶに至る。

 1988年のカルガリー冬季五輪に出場した英国のスキージャンプ選手、エディ・エドワーズ(Eddie Edwards)やジャマイカのボブスレー・チームも同様に話題をさらった。ジャマイカのボブスレーチームについては、ハリウッドで映画化されたほどだ。

■努力してきた選手たちが「日陰の存在」に

 こうした「ワイルドカード(主催者推薦枠)」については、五輪に出場するために何年も練習を重ねてきた選手たちを日陰の存在にしかねないとの懸念もある。

 国際オリンピック委員会(International Olympic CommitteeIOC)のジャック・ロゲ(Jacques Rogge)会長は2003年、「シドニーの水泳種目でにわか英雄が生まれるという事態は再び起こらないようにしたい。大衆は敗者を好むものだが、わたし自身はそういうことは好きではない」と語り、ワイルドカードを廃止したい考えを示している。

 だが、ワイルドカードは北京五輪でも存続する。開発途上国から6人程度が招かれる予定だ。

 英オブザーバー(Observer)紙は前月、陸上100メートル女子に、13秒10の記録を持つエリス・ラペンマル(Elis Lapenmal)、そして第2のムサンバニ選手との期待がかかるパレスチナの水泳選手ハムザ・アブドゥ(Hamza Abdu)を新たな「愛すべき敗者」候補に挙げた。

 こうした選手らは、近代五輪の父であるピエール・ド・クーベルタン(Pierre de Coubertin)男爵が精神を反映していることは間違いないだろう。男爵は五輪の精神についてこう述べていた。「五輪で重要なことは、勝つことではなく、参加することである。人生で大切なことは、成功することではなく、努力することである。重要なことは、打ち負かすことではなく、よく戦うことである」 (c)AFP