【5月21日 AFP】第61回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で20日、元アルゼンチン代表のサッカー選手ディエゴ・マラドーナ(Diego Maradona)の半生を描くドキュメンタリー映画『Maradona by Kusturica』が上映された。

 サッカーの偶像は、最初はサッカーを通じて、最近ではフィデル・カストロ(Fidel Castro)前国家評議会議長やベネズエラのウゴ・チャベス(Hugo Chavez)大統領との交流を通じて、西側の帝国主義に立ち向かう「反逆児」として描かれる。

 セルビア人のエミール・クストリッツァ(Emir Kusturica)監督のこの映画は、同じく「反逆児」で知られるマイク・タイソン(Mike Tyson)のドキュメンタリー映画『Tyson』のプレミア上映から4日後に登場した。

 引退後はドラッグに溺れたマラドーナだが、おそらく最も鮮烈に記憶されているのは、1986年のW杯メキシコ大会・準々決勝、イングランド戦での活躍だろう。後半開始直後の「神の手ゴール」(ゴール前にボールに手で触れたとされる)、続くディフェンダー5人抜きの「世紀のゴール」で、2-1でチームを勝利に導いた。

「あの時、わたしをはじめ10億人が跳び上がって熱狂したのに、なんで地球の軸が折れなかったんだろうね」と、マラドーナとともにフォトコールに登場したクストリッツァ監督は言う。

 監督は、この勝利を西側世界に対する「第三世界」の勝利だと形容する。監督の言う西側世界とは、国際通貨基金(International Monetary FundIMF)や北大西洋条約機構(NATO)といった兵器を使って自分たちのルールをアルゼンチンやセルビアといった国々に押しつける世界のことだ。

 それを示すために、映画では「世紀のゴール」が何度も繰り返される。その場面になるとアニメに変わり、マーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)英元首相、トニー・ブレア(Tony Blair)英前首相、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領といった敵の間をマラドーナがすり抜けていく。BGMは、セックス・ピストルズ(Sex Pistols)の『ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン(God Save The Queen)』。

『パパは、出張中!(When Father Was Away on Business)』と『アンダーグラウンド(Underground)』で最高賞パルム・ドール(Palme d’Or)を2度受賞した経験を持つ監督は、90分のこの映画でマラドーナをありのままさらけ出す。

 コカイン中毒との闘い、ピッチ上での乱闘騒ぎも詳細に描くが、監督はそんな彼に突っ込んだ質問をすることはないし、彼にあえて政治姿勢を語らせることもない。

 だが、監督がマラドーナを英雄視していることは確かで、マラドーナの方も監督に好感を持っている。実際、マラドーナは監督の自宅を訪問したことがあり、自分が司会を務めるテレビショーに監督を招いたこともある。フォトコールの際にも「監督に心を開いた」と語っている。

 監督自身が映画に頻繁に登場することについて、監督は「ブエノスアイレス(Buenos Aires)にディエゴを見つけられなかったことがしょっちゅうあったからね」と説明する。

 映画では、チャベス大統領やカストロ前議長と親しく会話するマラドーナ、血まみれのブッシュ大統領の写真がプリントされたTシャツを着ているマラドーナも登場する。

 そしてマラドーナは、なぜ政治に傾倒するのかとの質問に、「たとえサッカー選手であろうと、殺人者に関して意見を述べる権利はある」と答える。彼の言う殺人者とは、ブッシュ大統領のことだ。(c)AFP/Rory Mulholland

カンヌ国際映画祭の公式ウェブサイト(英語)

<第61回カンヌ国際映画祭動画一覧へ>