【4月28日 AFP】温暖化防止対策として提案されている硫黄粒子を地球の成層圏に注入する抜本的な手法が、かえってオゾン層の著しい破壊を招くことがわかった。米研究チームが科学誌「サイエンス(Science)」のウェブ版「サイエンス・エクスプレス(Science Express)」に24日、研究結果を発表した。

 高度約10-50キロの成層圏への硫黄粒子注入は、北極上空のオゾン減少を招き、オゾン層ホールの修復を数十年単位で遅らせる危険性があるという。 

 研究チームを率いる米国立大気研究センター(National Center for Atmospheric Research)のSimone Tilmes氏は、「研究の結果、人工的に地球を冷やす方法に危険な副作用があることがわかった。気候変動は大きな脅威だが、地球工学的な手法を試みる前に、より詳細な調査が求められる」と語った。

 過去数年間にわたり、科学者たちはこうした「地球工学的」な温暖化防止策の研究を重ねてきた。温暖化ガスの排出量削減だけでは、効果に限りがあるためだ。

 成層圏硫黄注入法を提唱したのは、ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェン(Paul Crutzen)氏。大量の硫黄粒子が大気中に放出される火山爆発にヒントを得たという。爆発後、太陽光線を遮断する働きを持つ硫黄が、現場周辺の地表温度を下げていたのだ。

 今回、Tilmes氏率いる研究チームはコンピューターシミュレーションにより、大量の硫黄粒子を定期的に大気中に人工注入することで、地表温度が実際に低下するかどうかを調べた。

 その結果、大量の硫黄注入が数十年間にわたり北極上空のオゾン層を約25-75%破壊すること、北極上空のオゾン層ホールの修復を30-70年程度遅らせることがわかった。

 大量の硫黄注入により、南北両極上空の冷層に存在する塩素ガスが活性化、これがある種の化学反応を引き起こし、オゾンを破壊するのだという。 

 オゾンは変わった特性を持つ分子だ。自動車の排ガスをはじめとする汚染物質によって地表面に発生するオゾンは、健康被害を引き起こす。ところが成層圏で自然発生するオゾンは、皮膚ガンの要因となる紫外線を遮断してくれるのだ。

 研究チームの1人、米メリーランド大学(University of Maryland)のロス・サラウィッチ(Ross Salawitch)氏は、「今回の研究により、地球温暖化とオゾン枯渇の関係が明らかになった」と語る。「2つの現象はこれまで無関係だと考えられてきた。しかし現在では、表面的には見えにくいものの極めて重要なところで関連している、という認識が高まりつつある」

 研究はさらに、今世紀後半になり、オゾン層破壊物質の生産が世界的に禁止されれば、硫黄注入による悪影響は軽減されるだろうとしている。(c)AFP