【4月3日 AFP】「エボラ出血熱」の恐怖が知られるようになってから30年以上が経つが、これまでの死者数は600人と意外にも少ない。

 エボラ出血熱に関する国際会議出席のためガボンの首都リーブルビル(Libreville)に滞在中の米軍の研究者、Thomas Geisbert氏によると、1日あたりの死者数はエボラ出血熱によるものよりもコレラやマラリアによるものの方がはるかに多いという。

■致死率90%、映画や小説が恐怖あおる

 エボラ出血熱は、1976年に初めてウイルスが発見されたコンゴ(当時ザイール)の小さな川の名前をとって命名された。その症状は激しく、致死率も高いが、「他人に感染する前に感染者が死に至るため、蔓延しにくい」と複数の専門家が指摘する。にもかかわらず、エボラ出血熱はとてつもなく恐ろしい病気との認識が、ハリウッド映画やサスペンス小説などを通じて人々の心に植えつけられている。

  「致死率90%」という数字が人々をひきつけるのだとGeisbert氏は言う。90%の致死率を起こす有機体は地球上でも数少ないからだ。

 そもそも、映画や本がエボラ出血熱を取り上げるようになったのは、冷戦下のソ連でエボラウイルスなどを使用した生物兵器の開発にあたった最高指揮官のケン・アリベック(Ken Alibek)氏が1990年代半ばに米国に亡命し、議会で計画を暴露したことがきっかけだった。

 だが、エボラ出血熱の存在が広く知られるようになったのは、ベストセラーになったリチャード・プレストン(Richard Preston)著「ホット・ゾーン(Hot Zone)」だという。米国の首都ワシントンD.C.近郊の町でエボラウイルスが発見されるという内容だ。

 別の研究者は、この小説を下敷きにした大ヒット映画『アウトブレイク(Outbreak)』がさらに恐怖をあおったとみている。映画が公開された1995年、コンゴ(当時ザイール)のキクウィト(Kikwit)ではちょうどエボラ出血熱が流行していた。人々は映画を観たあとテレビでこのニュースに触れることになり、映画のシーンは真実だと思うようになったのだ。

■バイオテロに発展の危険性も

 そして、2001年の9.11米同時多発テロ後、米国では炭疽菌芽胞の入った郵便物が送付されるという事件が発生。エボラウイルスを使用したバイオテロの可能性が指摘されるようになった。先のGeisbert氏によれば、「ウイルスを入れたボトル1本で40人を殺すことが可能」だという。

 だが、西側諸国のこうした「エボラウイルス狂騒曲」とはうらはらに、当のアフリカでは情報不足による混乱が生じている。たとえば、身体の各部位から出血するなどのおぞましい症状から、エボラ出血熱が「魔女のしわざ」だと信じる人が多く、感染者の遺体が埋葬されないケースもあるという。(c)AFP