【2月13日 AFP】国連(UN)が主催する世界の人身売買問題を話し合う初のフォーラムが13日、オーストリアの首都ウィーン(Vienna)で開幕した。3日間のフォーラムには人身売買問題に取り組む専門家や取り締まり当局者、経済界のリーダーや非政府組織(NGO)代表、さらに実際の人身売買の被害者ら約1200人が出席する。

初日は英国の女優のエマ・トンプソン(Emma Thompson)さん、プエルトリコの歌手リッキーマーティン(Ricky Martin)さん、スザンヌ・ムバラク(Suzanne Mubarak)エジプト大統領夫人らゲストスピーカーが人身売買の根絶を訴えた。

■音楽界から経済界まで参加、横断的運動を狙う

 国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and CrimeUNODC)のアントニオ・マリア・コスタ(Antonio Maria Costa)事務局長は開会演説で、「この部屋に集まった各界からの豊かな顔ぶれを見れば、この人身売買と戦う国際イニシアチブをウッドストック(ロックフェスティバル)とダボス(世界経済フォーラム)の間に位置づけることができよう」と歓迎した。

「政府による声明、専門家による討論、さらに音楽、演説、ビデオ、芸術のすべてがわれわれにインスピレーションを与えてくれる。このフォーラムの閉幕までに、今後われわれが進むべきロードマップを作り上げられるだろう」。コスタ事務局長はさらに「このフォーラムは政府間会議でもビジネス会合でもない。むしろ集会だと考えよう。一緒に行進しよう」と呼びかけた。

 人身売買には強制労働から性的搾取、臓器や身体部分の切除や売買といったほかの多くの重大犯罪も関係する。国連の推計では現在、世界で約250万人が人身売買されており、その80%を占めるのは女性と子どもだという。

 人身売買市場は全世界で数十億ドル(数千億円)規模になっており、人身売買された人々に強制労働させることで搾取される利潤は全世界で年間316億ドル(約3兆4100億円)に上ると推定されている。

■モルドバの被害女性の人身売買再現アート

 フォーラム内では映画祭など数多くのイベントが開催される。その中で展示されている「ジャーニー(旅)」と題されたインスタレーションによるアート作品は女優のエマ・トンプソンさんと、モルドバから18歳の時に英国の風俗産業へ売られた女性が一緒に考案したもので、女性が売春婦として体験させられた恐ろしい過去を画像で表現した。

 作品は7個の輸送用コンテナからできている。コンテナの中を進むと、エレーナという名前のみを公表しているこの女性が体験したおぞましい光景が再現されていく。

 最初は故郷モルドバの小さな家を表現したコンテナから始まるが、押し込められて夜の欧州大陸を運ばれた大型トラックや、ロンドンの売春宿の不潔で悪臭に満ち、息の詰まる部屋へと変化する。コンテナ内はこの部屋の臭いや汚れまでも実に気の滅入るほど再現している。女性はこの展示が再現した部屋に監禁され、1日40人もの男性を相手にする「サービス」を強制された。

 この作品は前年英ロンドン(London)のトラファルガー広場(Trafalgar Square)で展示され、1万5000人の観客が見学した。(c)AFP