【7月14日 AFP】鳥に似た大型恐竜「ギガントラプトル・エルリアネンシス(Gigantoraptor erlianensis)」を発見した中国科学院(Chinese Academy of Sciences)の古生物学チームを率いる徐星(Xu Xing)氏(38)は、これまで30種ほどの新種の恐竜の化石を発見してきた。

 発見した新種が多すぎて正確な数を忘れてしまったと徐氏はいう。AFPのインタビューに対し、「3年ほど前に、(自分が発見した)新種に名付けた数では世界の歴代3位に入るのではと言った人がいた。当時で20種以上に命名していた。それから3年でもう2、3種に命名した。合わせると30種近くになると思う。現在わたしが歴代1位かもしれない」と語る。

 脚光を浴びることが少ない古生物学界において、徐氏は今やスター的存在だ。化石の宝庫として知られる内モンゴル(Inner Mongolia)自治区北部で徐氏が発見したティラノサウルス(Tyrannosaurus)程の大きさを持つ鳥に似た大型恐竜の化石についての記者会見では - その発見が徐氏のこれまでの発見の中でも最も目を見張るものだったことは確かだったとしても - 記者会見でカメラマンがこの化石と徐氏のツーショットを撮影しようと先を争う場面さえ見られた。

 集まった報道陣を前に、関係者が化石を目玉にした観光振興策やありふれたテーマパークの建設計画を説明しているうちに通訳さえ注意を払わなくなってしまったが、質問を受けて徐氏が発見当時の心境を語り始めると集まったすべての人の関心が徐氏に集中した。「イノシシぐらいの大きさのネズミを見つけたら、とても驚くことだろう。ギガントラプトル(Gigantoraptor)を見つけたときはそんな驚きだった」と徐氏は語った。

 古生物学は本来、徐氏が生涯情熱を注ぐ学問として求めたものではなった。同氏の現在の成功はかつての中国の教育制度の硬直性のいわば副産物とも言える。会見の前に同氏は、「当時の中国では、学生が好きな専攻を選ぶことはできなかった」と述べている。

■誤鑑定による不祥事と再起

 今や中国各地に埋もれる化石を探求し大きな成功を収めた徐氏だが、かつて本物と鑑定した化石が実は手の込んだ偽物だったという不祥事に巻き込まれ、名声が地に落ちたことがあった。

 問題の化石は米国人コレクターが中国人密売人から買い付けたもので、詳しい調査の結果、88個の石片と化石片を合成樹脂と接着剤で薄い石版にモザイク状に貼り付けたものだと判明した。

 徐氏は1999年にこの化石を本物だと鑑定したが、鑑定の誤りを発見した研究チームの一員でもあった。徐氏は当時を振り返り、化石の発見に興奮して判断を誤ってしまったと話す。しかし、間違いを犯したことで慎重に結論を下すようになり、科学者として成長できたという。

 徐氏によれば、この事件をきっかけに、中国で化石の持つ科学的意味合いにほとんど興味のない密売人と地元住民が化石をぞんざいに扱っている実態に光が当てられるようになったという。徐氏は、化石を珍しい骨董品のように扱いがちな中国の風潮は問題だと指摘する。

 「History of Palaeontology」を著したフランスの研究者、エリック・ビュフェトー(Eric Buffetaut)氏は、徐氏を「古生物学の豊富な理論的知識を持つだけでなく、発掘現場でもすぐれた能力を発揮する中国古生物学界の新世代を代表する優れた研究者」と評し、徐氏と彼が率いる有能な若手研究者のグループの国際的な知名度は上がっていると述べている。

■鳥に似た新種の大型恐竜発見

 徐氏が2005年に体長5メートル、推定体重1.4トンという鳥に似た新種の大型恐竜ギガントラプトル・エルリアネンシスの大腿骨の化石を発見したのは、ドキュメンタリー番組を撮影中だった。

 この番組は徐氏が以前に発見した恐竜の化石を扱ったものだったが、制作担当者の依頼で化石の探し方を実演しているときに偶然発見したのだという。

 徐氏は、「地面にころがっていた骨の化石を適当に拾い上げた。最初は前に発見した種と同じ恐竜の化石だと思ったが、数分後によく見るとそれが肉食恐竜のものだと気づいた」と振り返る。それが徐氏がもう1つ新種の恐竜を発見した瞬間だった。(c)AFP/Guy Newey