【11月15日 AFP】東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の事故で放出されたセシウム137による日本全国の土壌汚染状況を推定した世界で初めての論文が、米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)電子版に発表された。

 研究を行った米メリーランド(Maryland)州の米大学連合宇宙科学協会(Universities Space Research AssociationUSRA)の安成哲平(Teppei Yasunari)客員研究員らは、過去の気象データを元にした粒子飛散シミュレーションと全国での観測数値をもとに、福島第1原子力発電所事故による汚染を見積もった。

 研究が対象とした放射性物質のセシウム137は半減期が約30年と長く、長期にわたって環境に影響を及ぼす。

 この論文によると、福島県のおおむね全域、特に福島第1原発の北西にある地域で、蓄積したセシウム137の濃度が土壌1キログラムあたり1000ベクレル程度の高い汚染があると推定されるという。

 また日本政府はセシウム134とセシウム137を合わせた放射性セシウム全体の濃度が、土壌1キログラムあたり5000ベクレルを超える場所でのイネの作付けを禁止しているが、論文は、土壌に沈着した放射性セシウムのおよそ半分がセシウム137だと考えると、福島県東部ではイネの作付け禁止基準を超えるとの推定を示した。

 さらにセシウム汚染がこの論文の推定値の上限に近ければ、宮城県、栃木県、茨城県などの一部地域にもイネの作付け禁止基準に近い場所があると見られ、「土壌1キログラムあたり250ベクレル以上の値が出る可能性が排除できない岩手、宮城、山形、新潟、栃木、茨城、千葉などの県でも、一部で(食料生産に)影響が出るだろう」としている。

■市単位での土壌検査を

 一方、西日本では、一部の地域である程度の影響があるとみられるものの、推定値と実測値による汚染の程度は土壌1キログラムあたり25ベクレル未満で、東日本ほど深刻ではなかったという。しかし論文の執筆者らは、各都道府県に対し、市単位で土壌検査を行って今回の推計結果を裏付ける補足調査を速やかに行うよう呼びかけている。(c)AFP/Miwa Suzuki

【参考】
研究チームのプレスリリース(日本語、PDF)
PNAS電子版に掲載された論文(英語、PDF)