ジュリア:Wedgeはこれまで日本国内の取材にはとても力をいれていますが、海外の事件や出来事を特集するのは珍しくありませんか?

大江編集長:これまで、アメリカ、中国や東南アジアは何度も取り上げています。これらのエリアは日本とビジネス面で関わりが深く、注目度が高いからです。欧州や中近東、アフリカも何度か記事として取り上げてきましたが、反応が高かったとは言えませんね。関心があるとすれば資源やエネルギーといったところで、日本の人たちにとって、少し縁遠い地域なのでしょう。
特にイスラムは今回、テロ事件や人質事件があったからいろいろと注目されていますが、この一連の事件がなければ、やはり注目度は低かったのではないかと思います。中東・イスラム、特にISILはどういう人たちなのかというのは、去年の11月号でいちはやく記事化しました。そのときは多少の反響はありましたが、今ほどではありませんでした。今回の事件を受けて、後にその号が電子版として売れたりもしましたが、事件がないとなかなか注目されないという事実はあります。

 しかし、Wedgeとしては世の中の関心や視聴率がたとえ低くても、重要だと思われることに関してはなるべく読まれる形にして読者の皆さんに届けたいと思っています。今回の特集で一番焦点を当てたのは、ヨーロッパの人たちが中東の人たちをどうみているのかということです。つまり、ヨーロッパの中におけるイスラム、ムスリムの存在の認識のされ方を伝えたいと思いました。

FRANCE, Paris : Muslims pray in the street as part of Friday's prayers, on April 8, 2011 at the rue des Poissonniers in Paris. Due to Paris' mosques capacity problems, weekly prayers often overflow on to the streets in the 18th arrondissement of the French capital. AFP PHOTO MIGUEL MEDINA  例えば、フランスの街中ではイスラム教徒がお祈りの時間になると公道にあふれて礼拝する姿がみられました。これらの風景は、我々日本人の目には、少し異様にも映るわけですが、この習慣は、2011年9月に当時のサルコジ大統領によって、禁止されました。フランスの中ではムスリムの人たちが日常生活のなかに普通に沢山いて、ごくごく身近にある。けれど、ちょっと異質な存在でもある。日本人にとって、理解しにくいこの環境と感覚をどう理解していくのか、さらにはどう伝えるか。そこが今号で最も難しいポイントでした。
 

 

ジュリア:いまヨーロッパで起こっていることは、宗教問題のようで実は貧困や教育の問題であると感じますが、そのあたり大江編集長はどうお考えですか?

大江編集長:そうですね。今回、多くの有識者が口をそろえて言っていたのは、一番根底にあるのはヨーロッパの経済だということでした。経済成長が止まったことが、すべての問題を引き起こしていると。ある意味、日本にとって示唆的です。日本は経済成長がヨーロッパ以上に止まっているのに、それをどうにかするために移民を入れるという議論をしているのですから。

 ヨーロッパは、経済成長が強い時代に移民を大量に受け入れ、様々な福祉政策・統合政策と一体となって運営してきましたが、経済が難しくなってくると、それらの政策の実行が難しくなっていろんな軋轢が生まれています。それを同じ時代で見ているのに、経済成長がはるかに止まっている日本が自己都合で移民、単純労働者を入れたいと考えている。これをどのように考え、捉えていくか。

 日本の外国人人口は西欧に比べるとかなり少ないのに、その少ない外国人労働者に対しても、日本はヨーロッパほどの政策はとれていません。ヨーロッパが苦労してきた統合政策に類するものが、日本にはありません。ある程度時間が過ぎたら、帰ってくださいという考えです。少ない外国人労働者に対しても、その程度の政策しかできない日本が、移民問題を本当に深く考えられるのか、と身につまされるものを感じました。ヨーロッパの人たちがムスリムの人たちに感じている感情は、私もこの号を作ってもまだ理解しきれていないだろうと思います。もっともっと勉強しなければいけないことがあると感じましたね。
 

 

大江編集長:ところでジュリアさんは、ドイツ出身ということですが、ドイツには多くの移民がいますか?

ジュリア:トルコ人が多くいます。EUの国境が開かれているので、一度EUに入ってしまえばほかの国でも働ける。多少の制限はあるかもしれませんが、かなりオープンです。

大江編集長:トルコ移民はトルコの状況を反映して世俗的なのでしょうか?

ジュリア:いいえ、そうでもないです。それぞれの国によって違いますが、どの国においてもかなり大きな論点です。移民も、自分と同じコミュニティーの人と一緒にいたがる傾向があります。先ほど大江さんがおっしゃっていた、問題が経済に根ざしているというのはその通りだと私も思います。宗教の問題は、物事をゆがめるのが簡単で、人々の感情を煽りやすいですからね。フランス・ドイツ・イギリスなどにも、これまでの歴史を振り返るとそのような背景がありますよね。

大江編集長:西欧とイスラムは、文明の衝突だと簡単に理解する向きが日本にはあると思いますが、ヨーロッパの歴史を振り返ってみると、ヨーロッパの統合は、そもそもホロコーストの反省に根ざしたものでした。西欧の人たちが持っている、異文化に対し融合していこう、多様性を重んじようという精神は、もっと奥深いものだし、懐の深いものなのだろうと思います。きっと今回のテロ事件も歴史に残る事件の一つとして、ヨーロッパの人たちは乗り越えていくと思います。

 しかし、そのヨーロッパの懐の深さとは一見反するような、局所的に広まっている排外主義も一遍に理解する必要があります。フランスのマニュエル・バルス(Manuel Valls)首相は左派の出身なのにイスラムとの戦争状態に入ったと宣言し、大喝采されています。国会で第一次大戦終結以来、初めてラ・マルセイエーズを合唱し、何百人もの少年がテロ擁護容疑で逮捕され、盗聴法などが強化されています。懐の深さがあるはずのヨーロッパで、それを代表するフランスで起きている非常に強い政治的な動き。このあたりを日本のメディアは報じていないように感じます。事件やデモまでは報じましたが、その後ヨーロッパがどう苦しんで、何をしているのかを、日本のメディアは報じていない。ここにくると一気に関心がなくなってしまう。