【12月26日 AFP】最初はテレビを通じて家のリビングにとどろいていた「ゴーーーール」という歓声は、やがてストリートでも聞こえるようになり、徐々に「ストライク!」のコールに取って代わりつつある――。最近キューバではサッカーが子どもたちの心をつかんでおり、国内最大の人気スポーツとして野球を脅かそうとしている。

 40年にわたり野球の若手有望株を指導しているハンベルト・ニコラス・レイエス(Humberto Nicolas Reyes)さんは、「サッカーは以前、底辺の存在だったのに、今では国技としてトップの地位まで上りつつある」と諦めた様子で話した。

 レイエスさんは、米大リーグ(MLB)のスター選手であるヨンダー・アロンソ(Yonder Alonso)や、元選手のアレックス・サンチェス(Alex Sanchez)氏らを若手時代に指導した経歴があり、そのことを誇りにしている。しかし最近は、子どもたちにグローブを使った捕球の仕方を身振りで教えても、「ほとんどの子どもたちがサッカーの方にいってしまう」とこぼした。

 2020年東京五輪では野球が実施競技として12年ぶりに復活するにもかかわらず、キューバでサッカー人気が加速している現状には目を見張るものがある。1959年にフィデル・カストロ(Fidel Castro)元国家評議会議長が革命を起こして以降、野球は陸上やボクシングと並び母国の外交的切り札となっており、五輪で通算3度のタイトル獲得を果たしているほか、IBAFワールドカップ(Baseball World Cup)でも計25回の優勝を成し遂げた。

 ところがストリートでは、今やサッカーが新たな王者になりつつある。

 サッカーのキューバ代表チームを率いるラウル・メドロス(Raul Mederos)監督は、ペドロ・マレーロ競技場(Pedro Marrero Stadium)で選手の練習を見守りながら、「最近の子どもたちや若者は、野球よりサッカーを始めたがる傾向にある」と話した。

 以前は珍しかったが、今では人々が早起きして欧州サッカーの試合をテレビで観戦したり、子どもたちがリオネル・メッシ(Lionel Messi)やクリスティアーノ・ロナウド(Cristiano Ronaldo)の名前入りユニホームを着てストリートサッカーをしたりすることが当たり前となっている。

 19歳の学生アスリートであるアレハンドロ・イスキエルド(Alejandro Izquierdo)さんが「僕たちは、どこであろうともプレーできる」と話すように、キューバ革命の英雄エルネスト・チェ・ゲバラ(Ernesto Che Guevara)のネオンサインが光る壁の下では、ユース選手が夜間練習を行っていた。

 サッカーのキューバ代表がW杯(World Cup)でプレーしたのは1938年フランス大会の一度きりとなっており、イスキエルドさんは母国のW杯本大会出場を夢見ていると話した。