ゼロ年代の演出家・藤田貴大が語る「おんなのこ」の美【後編】
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■女子は誰にも馬鹿にされちゃいけない
エッセイに続いて発売された詩集『Kと真夜中のほとりで』には、言葉と身体、詩と演劇の往還から生まれた5篇のポエトリーを収録した。「舞台のリズムや、女性が発する言葉のテンポを意識して、それを『詩』というレベルまで昇華させたような文体」で書かれており、タイトルは同名の舞台作品に由来する。
この2冊で共通している思いは「女子が誰にも馬鹿にされることなく、生きていけなきゃいけない」という切実な思いだ。「男子ってやっぱり男子っていうだけでこわいし、キモい。男子がちょっと声をあげると、男子の僕でもこわいと思う。だから女性には、男子よりも変にハードルがあるだろうなって容易に想像できる」。日常的に社会で虐げられている女子を見るたびに、藤田の胸は痛む。
「女子は、ちゃんと自分が選んだことをやっていけばそれでいいはず。それは『おんなのこはもりのなか』で描きたかったことだし、もっと描きたかったことでもある」。きっとその優しさと繊細さが、瑞々しい藤田ワールドの軸ともなっているのだろう。
■自分がいなくなることが最終目標
演劇だけにとどまらない活躍を見せているが本人は「何をやっていても、僕は演劇作家」と考え、そのスキルを使ってすべてに取り組んでいる。すべてにこだわり、「何も無視しないということが好き」というのは、彼の天賦の才能なのでもあるのだろう。「こんなに演劇をしていても、『この部分、僕は考えてなかったな』って果てしなく打ちのめされる。いろんなことに特化しているプロに囲まれているけど、僕はどのプロでもないプロ。それを肌で感じれば感じるほど打ちのめされるし、でもいろんなことが人生として楽しい」とほほ笑む。
そんな藤田が最終的に目指すのは、自分がいない作品だ。観劇後に「あのドレス、本当によかったね」「あの演技もすごくよかった」と語る観客たちが「なんで藤田はこんなことやりたかったんだろう?」と最後に思いをはせるくらいがちょうどいいと言う。「すぐにディスられるけどそれがすごく良くて(笑) 最終目標は、いなくなること」
強いまなざしを持つ美貌の演劇作家は、そんな思いを胸に今日も坂の上の稽古場へ通う。ステージで生まれ消えゆく壮大な物語は、これからも多くの「おんなのこ」たちを魅了し続けるのだろう。舞台の上に「不在」でも、藤田貴大のメッセージは彼女たちの胸に響く。それは「おとこのこ」からの力強いエールであり、「おんなのこ」たちへの無限の愛だ。
■書籍概要
・エッセイ「おんなのこはもりのなか」
価格:1404円(税込)
発行:マガジンハウス
・詩集「Kと真夜中のほとりで」
価格:1,700円(税抜)
発行:青土社
■関連情報
・「マームとジプシー」公式HP: http://mum-gypsy.com
・「おんなのこはもりのなか」特設サイト:https://magazineworld.jp/books/paper/2835/
・「Kと真夜中のほとりで」特設サイト:http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3032
(c)MODE PRESS