■過去と現在が混ざりあう

 ペイトンはギュスターヴ・クールベ(Gustave Courbet)からアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)に至るまであらゆる肖像画を研究し、きわめて現代的な手法によって作品を仕上げている。写真やモデルを見ながら描くこともあり、過去と現在が凝縮されたその世界観は独特だ。「写真を使うときは、ある時点で写真を横に置き、記憶を頼りに描いていく。そして『もうこれ以上描かなくていい。もうこれ以上やることがない』と分かったとき、絵は完成する」と言う。ペイトンの簡潔で迷いのない筆致には、魅了されるファンも多い。

笑顔で取材に応じるエリザベス・ペイトン(2017年1月20日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

■「人を、愛したくなった」

 この展覧会では、25年のキャリアにおけるペイトン作品の変遷がカバーされている。多岐にわたるジャンルと主題は興味深いが、ペイトン本人はそれらを振り返り「私の興味の対象はさほど変わっていない」と分析する。「ただ近年になってより深みが出てきたのか、表現の幅が出てきたのかもしれない」。歴史や神話、記憶などを取り入れた彼女の作品は時を重ねるにつれ、さらに深みを増していくのだろう。

 美術館のスタッフが「仕事していてよかった」「人を愛したくなった」と漏らすほど、特別な感情を呼び起こすペイトンの作品たち。控えめなサイズのキャンバスに込められた美と憧れは、私たちの心の奥底にある愛情の純粋さに気づかせてくれる。展覧会は5月7日まで開催。この貴重な機会をどうぞお見逃しなく。

オペラを主題にした作品も多く展示される(2017年1月20日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji 手前より 「Richard Wagner」2010 Private Collection, New York 「Kristian」2014 Courtesy of the Artist and Gladstone Gallery, New York and Brussels、他

■展覧会概要
「エリザベス ペイトン:Still life 静/生」
会期:開催中~5月7日
時間:11:00~17:00 ※祝日を除く水曜は20:00まで、入館は閉館時刻の30分前まで
会場:原美術館
東京都品川区北品川4-7-25
電話:03-3445-0651(代表)
料金:一般1,100円、大高生700円、小中生500円
休館日:月曜日(祝日にあたる3月20日は開館)、3月21日

■関連情報
・原美術館 公式HP:http://www.haramuseum.or.jp/
(c)MODE PRESS