【6月3日 MODE PRESS】「フエギア1833(FUEGUIA 1833)」は昨年、グランドハイアット東京に日本1号店をオープンしたブエノスアイレス発のフレグランスメゾン。創設者であり調香師のジュリアン・ベデル(Julian Bedel)が、南米各地で採取した植物などを用い、希少価値の高いユニークなオード・パルファムを発表し続けている。メンズ・ウィメンズのカテゴリはなく、すべてユニセックス。インスピレーションとなった人物や風景などもさまざまで『詩人ボルヘスの作品に潜む、香りの謎を解き明かすコレクション』など、テーマも独特だ。ボトルやネーミングへのこだわりはもちろん、店舗には香水瓶の上にフラスコが置かれていることに驚く人も多い。ムエット(試香紙)を使わずに香りを試すことができるという、一風変わった趣向となっているのだ。

 多才なスキルを持ち、デザイナーや音楽家としての顔も持つベデルは1978年ブエノスアイレス生まれ。彼のこだわりの詰まった香水はまさに「アート作品」と呼ぶにふさわしい。感性を刺激する唯一無二のフレグランスを発表し続ける彼に、その創作哲学を聞いてみた。

六本木のブティックでは、香水瓶の上のフラスコを手に取って香りを試すことができる(2016年5月30日撮影)。 (c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■香水業界の常識を覆す!?

「私たちは植物のリサーチからラボでの調合、生産過程、セールスにいたるまですべてのアプローチを一貫して管理している。そこがほかのブランドとの大きな違いだろう」とベデルは語る。コンセプトや化学式もオリジナルで、一つ一つクッキングのように調合しているという。限定された原材料で作っているので製造できる量は限られてしまうが、満足するまで香りを探究できるのが強みだ。またその香りを示すチャートもブランド独自のものを使っている。通常は揮発性を表す「トップ/ミドル/ラスト」というピラミッド型の概念が使われるが、「フエギア 1833」では楕円形のチャートに3種類の香りを明示するのみ。その理由について「まるで天体軌道図のようでしょう?私たちは時間軸によってではなく、レイヤー(層)で香りを楽しんでもらいたい。たとえば音楽における和音のようにね」と楽器製作者の顔も持つベデルは語る。

新作発表のため来日したジュリアン・ベデル(2016年5月30日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■植物学研究所まで設立

 ブランド名は19世紀にチャールズ・ダーウィン(Charles Robert Darwin)の航海に同行したパタゴニアの少女、フエギア・バスケット(Fueguia Basket)に由来する。「種の起源」への道のりを示した彼らに敬意を示し、南米産のエキゾチックな植物にこだわるベデルは、ウルグアイで大規模な植物学研究所「フエギア 1833 ボタニーセンター」まで運営しているほどだ。5万ヘクタールの敷地を誇るセンターではアロマティックな草花や樹木が咲き誇るという。「このブランドの香水に規定のパレットはない。より良い技術や知識を得るたびに調合法を改良し、材料によって価格も変えていく。つねに新しい原材料を探し求め、現代の調香では前例のないようなものも積極的に使っているよ。私たちは自由なんだ」とベデルはほほ笑む。「フエギア 1833」のラッピングに南米の地図が使われていることにも、彼の祖国への深い愛情とこだわりが感じられる。

「フエギア 1833 ボタニーセンター」には水生植物を育てる美しい池も。(c)Fueguia 1833

■女性モデルを広告に使わない理由

「フエギア1833」は、愛する詩やタンゴなどをパタゴニアの豊かな植物の香りによって表現したい、というベデルの思いから誕生した。一つ一つに文化的な物語が込められており、手書きのラベルが貼られた香水瓶は少数生産性ならではのアイデンティティを持つ。雑誌やテレビで見かける香水の広告といえばセンシュアルな女性のイメージが定番だが、このブランドでそういったものを見つけるのは難しい。「香水というのはとても神秘的なものだ。私は感性や精神性というものを大事にしているので、香りによって使う人それぞれの記憶を喚起させたい。香水はハンドバッグのように誰かに見せびらかすことのできるアイテムではなく、より内に秘められたものだから」。「フエギア 1833」の顧客は、香りの向こう側にあるストーリーを感じ取れる洗練された人たちなのだとベデルは信じている。「だからヌードでポーズをとっているようなモデルの写真は必要ない。もしかしたらかわいい猫の写真なら使うかもしれないけどね(笑)」

■「木漏れ日」を香りで表現すると

 このたび発売となった新作の日本限定フレグランスのテーマは「コモレビ(Komorebi)」。謎めいたアンバーで木の葉の作る影を、そして桜の儚げな香りで光のカーテンを表現した。「木漏れ日」という言葉は外国語に訳せない独特の日本語だと言われているが、ベデルはその光景や趣きまでも透明感のある香りに落としこんでみせた。巧みに調合された香りは、一吹きでまとう人々の気分を高揚させることだろう。

光と影を香りで表現した「コモレビ(Komorebi)」。30mL 12,000円、100mL 23,000円(ともに税抜)(c)Fueguia 1833

■自称「失敗のエキスパート」

 芸術一家に生まれたというベデルは、調香師という職業についてこう語る。「クリエーションへのアプローチとしては、芸術も香水も同じ。創作に取りかかるにはまず構成要素について深く考えなくてはならない。香水はエモーショナルでありながら実体的なものでもある。だから自分の表現手段として香水を選んだとき、化学や植物学、色素や分子、調合などあらゆるプロセスについて学ぼうと思ったんだ」。

 彼にとって大事なのは何事も好奇心をもってアプローチすることだという。「挑戦とはどれだけ失敗できるか、だ。失敗でモチベーションを失うこともあるけれど、プロセスを楽しんでいれば学ぶことはたくさんある。真剣さと情熱さえ抱いていれば、失敗は必ずその後の正しい決断につながっていく」とベデルは語る。「どんどん上手な失敗ができるようになった。僕は失敗のエキスパートだよ」と彼はチャーミングな笑みを見せた。

ミラノの旗艦店内には、ベデルの愛する数々のアート作品や楽器が並ぶ。(c)Fueguia 1833

 イタリア、ミラノにオープンしたばかりの旗艦店にはグウィネス・パルトロウ(Gwyneth Paltrow)やエルトン・ジョン(Elton John)、ミック・ジャガー(Mick Jagger)も訪れるという。都会の喧騒からふと離れたくなったとき、ベデルの詩的なクリエーションは人々を異世界へと連れ出してくれるのだろう。このアーティスティックな「変わり者」はこれからもさまざまな試行錯誤を重ねながら、香りの「革命」を続けていくに違いない。

■お問い合わせ先
・FUEGUIA 1833 東京本店/03-3402-1833

■店舗概要
・FUEGUIA 1833 東京本店
東京都港区六本木6-10-3 グランド ハイアット 東京 1Fロビー内
電話番号:03-3402-1833
営業時間:11:00~20:00

■関連情報
・FUEGUIA 1833 公式HP:http://www.fueguia.jp/
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