■ブティックホテルやデザイナーズホテルも良いけれど

 昨今アメリカのホテル業界におけるトレンドの1つとして、ACE HOTELやW HOTELなどの、いわゆるブティックホテルが話題に取り上げられることが多かった。一時期の異常な人気ぶりは一旦落ち着いたものの、いまもなお世界中から集まる「オシャレ」な人々から高く支持されている。典型的な都会の上昇思考とは違った、気取らずがんばりすぎないスタイルを「オシャレ」と定義する、等身大の若者、特にクリエーターたちに支持されている。この一連の流れ(後にノームコアという言葉に繋がるスタイル)は、ブルックリン(ニューヨーク州)やポートランド(オレゴン州)から全米の「オシャレ」層に影響を与え、その後世界中から注目を集めるようになる。

■外的要素の先に内的要素の満足

 とはいえ、「等身大の気取らない(最先端な)自分(ってオシャレ!)」という幻想もいいけれど、ノームコア、つまり普通であることに早々に飽きてしまった人々は、まるで友達の家にいるような感覚で宿泊するブティックホテルや、デザイナーの世界観をこれでもかと詰め込んだデザイナーズホテルに、旅行のたび泊まりたいわけでもない。時には、外的要素としてのオシャレよりも、内的要素、例えばそれまで経験したことがないドキドキワクワクするような未知の世界を求めている時だってある。トレンドは押さえたい。しかし厄介なことに、人は一過性のスタイリッシュなものでは物足りなくなると本質的なモノ、つまりもっとハードルの高いモノが欲しくなる。

■成熟した顧客を満足させるためには・・・

 「業界はもちろんのこと、世の中全体が成熟した感が否めない今、コンラッドホテルがコンラッドホテルである所以、つまりスマート・ラグジュアリー・ホテルの役割を見つめ直す必要がありました。その際に意識したのは、他のホテルと圧倒的な違いを明確にするために、ありきたりなことはやりたくないということでした」と語るのは、「CONRAD1/3/5」のプロジェクトを牽引したヒルトン・ワールドワイド ラグジュアリー&ライフスタイルブランド マーケティング担当副社長のスチュアート・フォスター氏だ。フォスター氏は、本プロジェクトを始めるにあたり、コンデナスト社のデジタルフードブランド「エピキュリアス(Epicurious)」元編集長で数多くのテレビ番組にもフード・トラベル・ライフスタイルアドバイザーとして出演するニロウ・モタメド氏に相談。そして、ホテル業界初となる「ディレクター オブ インスピレーション」として起用するに至った。