■社会価値の最大化を目指す「意識の高い資本主義」

 当初、こうしたオーガニック系スーパーは、健康意識の高い富裕層を相手にしたものだと捉えられてきたが、近年ではそうした特殊な存在ではなく、普通の人々の生活に根付くようになってきた。ホールフーズ・マーケット共同CEOのウォルター・ロブ氏は、ビジネスジャーナル誌のインタビューの中で次のように述べている。

 「もともとのお客様は、ナチュラルで有機栽培を好むお客様でした。(中略)というのも、私たちは新鮮なフルーツや野菜、お肉など新鮮な食品を提供していましたから、グルメ志向のお客様がいらっしゃったのです。現在は新世紀世代(Millennials)のお客様がいらっしゃっています。彼らはフェアトレードやホールトレードに関心をもつお客様です。同時にお客様の人種も多様化しているように見えます。客層が白人の富裕層だと思われていますが、そうではありません。学生を含めて健康に関心をもつ全ての人種層です。健康は全ての人種に共通する関心事ですし、21世紀の偉大なプラットフォームです。私たちのビジネスが成長しているのは、お客様への受けが多岐に広がっているからです」
※参考資料6:http://blogos.com/article/31143/

 では、これらのオーガニック・スーパーは単に身体や環境に配慮した商品を消費者に提供しているから、人々に支持されているのだろうか。これらが支持されている背景に、ひとつのキーワードがある。

 「コンシャス・キャピタリズム」――直訳すると「意識の高い資本主義」となるだろうか。今アメリカの新しい企業文化として急速に支持を集めているのがこの概念だ。つまり、利益を追求のためだけに企業は存在しているのではなく、経済的価値に加えて、従業員や顧客、環境問題などの社会的価値も追求しなければならないという姿勢のこと。ホールフーズのジョン・マッキーは2007年に発表した論文において、そのビジネスモデルとして、このコンシャス・キャピタリズムを掲げており、その実現のためには次の4つの経営姿勢が必要であると述べている。

・利益や株主価値の最大化だけでなく、より高い目的を意識したビジネスを目指すこと
・顧客、従業員、投資家、サプライヤー、地域社会、環境との関係がゼロサム・ゲームにならないようにステークホルダー・モデルを理解すること
・リーダーは自分自身と組織の繁栄を同一視し、組織の目的にかなうように振る舞うこと
・これら3つを実現させる企業文化を創造すること
※参考資料7:http://diamond.jp/articles/-/15185
※参考資料8:http://www.wholeplanetfoundation.org/files/uploaded/John_Mackey-Conscious_Capitalism.pdf

 今、ホールフーズやトレーダー・ジョーズ、あるいはパタゴニアといった企業は、このコンシャス・キャピタリズムの実践企業であると、ダイナ・サーチ代表の石塚氏は指摘している。

 「従来型のキャピタリズムとコンシャス・キャピタリズムが根本的に異なるのは、“利益最大化を本旨としたキャピタリズム”ではないということです。利益は大きければ大きいほど良い、利益拡大のためなら他を犠牲にしても良い、という考え方ではありません。むしろ、重要視しているのは“(社会)価値の最大化”です。しかし、それでいて、コンシャス・キャピタリズムの実践企業は、従来型の企業の標準をはるかに超える利益を上げ、長期的に安定した成長を実現しています。“利益最大化を本旨とせずに利益を上げる”という逆説が成立しているのです」
※参考資料9:http://www.insightnow.jp/article/7668/2

 「コンシャス・キャピタリズム」を標榜するオーガニック・スーパーの経営者たちは、お客に自分たちの健康だけではなく、地球環境を考慮した買い物の仕方を意識付けさせ、しかもそうした行為が当たり前で、楽しいものであるという価値観をもたらした。彼らは、それを消費社会における次なるライフスタイルのあり方として提案しているのだ。

 利益の最大化ではなく、社会価値の最大化を目指すスーパーとその製品を積極的に支持する消費。しかもそれを日常の野菜や牛乳レベルから始める試みがここまで巨大化している。では、もっと「社会価値の最大化」を企業にも、そして自分自身にも向けた活動というのはありえるのか。その魅力的なヒントはブルックリンにあった。(以下、次回に続く)【菅付雅信】

■プロフィール
1964年宮崎県生まれ。法政大学経済学部中退。「コンポジット」、「インビテーション」、「エココロ」などを創刊し編集長を務める。現在は雑誌、書籍、ウェブ、広告などの編集を手がける。著書に「東京の編集」「はじめての編集」「中身化する社会」等がある。

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