【7月19日 AFP】スイスの時計メーカーは、制作が噂されている米アップル(Apple)のスマートウォッチ発表に関して進行状況を注視しているものの、同社の業界参入はそれほど脅威ではないと語った。

 アップルはこれまで囁かれていた、iPhoneやiPadの性能をそのままに、手首に着用できるスマートウォッチの開発計画に関して固く口を閉じていた。

 業界関係者は、アップルや他の家電メーカーが、伝統的に狭い時計製造業界に参入することは、市場を根本的に変革する可能性があると警告した。フランスのデザイン事務所ネリー・ロディー(Nelly Rodi)のメンズファッション部門責任者、ジェローム・ブローシュ(Jerome Bloch)は「スマートウォッチが参入すれば市場の交代に繋がるでしょう」とコメントした。

 スマートウォッチは、ジェネレーションYと呼ばれる1980年から2000年の間に生まれたテクノロジーに精通している世代を獲得すると予測されている。同時に、最新テクノロジーを好む傾向にある、全世代に共通した高級志向の消費者たちの関心も集めるだろうとロディーはAFPにコメントし「これは遠い未来の話ではありません」と強調した。

 アップルは新しい市場を圧倒する実力があることを、音楽業界や携帯電話業界などの前例によって証明しているが、アップルの野望はスイスの時計ブランドには今のところ混乱を及していない。「スマートウォッチがスイス製の時計にまったく対抗できないだろうと思うのは自惚れかもしれませんが、輸出のほとんどを締めているハイエンドのスイス時計との競走するまでには至らないでしょう」と仏高級ブランドグループ、LVMH傘下の「ウブロ(Hublot)」で最高経営責任者を務めるジャン・クロード・ビバー(Jean-Claude Biver)はAFPの取材にコメントした。

 フォントーベル銀行(Vontobel)のアナリスト、Rene Weberによると、輸出されているスイス製の時計の87%に10万円以上の値が付いている。一方で驚異となりうるのは「スウォッチ(Swatch)」などのスイスメーカーの中でも比較的安価な価格帯の市場だろう。しかし、ケプラー(Kepler)のアナリスト、Jon Coxによると、スマートウォッチによって一番打撃を受けるのはアジアやアメリカの市場だろうと予測し、「私はスウォッチグループへの市場打撃は、収益の5%未満ですむと予想しています」とコメントした。

 Hebdo誌のインタビューで、「スウォッチ」のニコラス・ハイエック(Nick Hayek)最高経営責任者はアップルの参入に対して特に動揺はしていないと語り、アップル社のエンジニアたちがスウォッチ社を訪問することについても許可したという。

 「スウォッチ」がもっともよく知られているのは低価格帯のプラスチック時計だが、スイスの時計製造業者は「スウォッチ」の子ども向け時計「Flik Flak」のような製品のほかに、「ブレゲ(Breguet)」、「オメガ(Omega)」など1点1億円以上するような伝統的な高級品まであらゆる価格帯の製品を取り扱い事業展開をしている。

 スイスの時計ブランドは1970年代にクォーツ時計の波に乗り遅れ、深刻な経営危機に陥ったが、スウォッチと、とりわけハイエンドウォッチが好調だったことで持ち直した。「スイス製の時計は男性にとってとても珍しい高級品であり、中国産の低価格帯の製品とははっきり異なっています」とシティグループ(Citigroup)のアナリスト、トーマス・ショーベ(Thomas Chauvet)は語る。また同氏は、スマートウォッチが業界に波風を立てることはあるかもしれないが、また業界全体が停滞するようなことはないだろうとも述べた。「スマートウォッチの発明は1970年代のクォーツ時計の発明ほど革新をもたらすことはないでしょう」

 またスイスの時計ブランドもアップルの攻撃を座して待つつもりはない。同じくLVMHの傘下ブランドである「タグ・ホイヤー(Tag Heuer)」は米ソフトウェア大手「オラクル(Oracle)」と組むことによって浮上しつつあるスマートウォッチ前線に既に先手を打った。タグ・ホイヤーはオラクルのヨットレースのスポンサーでもあり、個々のレーサーが風向きや船の傾斜などが分かる時計を開発した。分散投資部門の責任者トーマス・ホウロン(Thomas Houlon)はオラクルの開発グループとの共同事業は価値のあるものだったと語った。「我々は開発に1年ほど費やしました。言い換えれば、時計の開発にしては、とてもスムーズに進んだということです」(c)AFP/Nathalie OLOF-ORS