■「ライフスタイル」は「買える」のか?

 現在の人々の欲求の変化について、著名なグラフィック・デザイナーであり、現在は名門美術大学ロードアイランドデザイン学校の学長も務めるジョン・マエダ氏が、興味深い視点を語っている。

「現在、人々はテクノロジーやデザインを超えたものを欲するようになっている。単なる移動手段としての4つの車輪やハンドルを欲しているわけでもなく、あるいはどこにいても常に音楽や情報に取り囲まれていたいと考えているわけでもない。いま彼らが求めているのは、自分の価値観を思い出させてくれるような方法──つまり、この世界のなかでどのように生きることができるか、どう生きるつもりか、どう生きるべきかという価値観を思い出させてくれるものである」(参考資料:その3)http://wired.jp/2012/09/26/so-if-designs-no-longer-the-killer-differentiator-what-is/

 確かに人々がデザインを超えたものを欲している傾向は間違いないだろう。そして消費が飽和した現在、もはや単体の商品を欲しいというよりも、憧れるライフスタイルに付随する商品を欲しいと多くの人たちが思うようになってきている。そんな中、ファッションや食の産業だけに関わらず、化粧品、家電、さらには車まで、あらゆる産業の「ライフスタイル産業化」が進んでいる。突き詰めて言うと、欲しいのは「商品」ではなく「生き方」になっている。これは前の連載「ファッションが終わる前に」(2012年9月~2013年2月)や2月末に発売された拙著「中身化する社会」(星海社新書)で述べて来たことだが、今年2013年に入り、その傾向に加速がかかっているように思える。

 ライフスタイル・マガジン、あるいはライフスタイル・ショップの爆発的増加は、「ライフスタイル」そのものが商品化され、消費の対象となりつつある状況を端的に示している。なぜ、人々はそれらを求め、「生き方」に夢中になっているのか。いかにして作り手は、マエダ氏が言うところの「価値観を思い出させてくれるもの」を持続的に作りうるのか。資本主義の最後の商品としての「生き方」の行方を探ってみたい。(第二回に続く)

【菅付雅信】
■プロフィール 1964年宮崎県生まれ。法政大学経済学部中退。「コンポジット」、「インビテーション」、「エココロ」などを創刊し編集長を務める。現在は雑誌、書籍、ウェブ、広告などの編集を手がける。著書に「東京の編集」「はじめての編集」「中身化する社会」等がある。 (c)MODE PRESS

<インフォメーション>
・キンフォーク公式サイト
・Atlas Quarterly

・3191 Quarterly

・Apartamento

・GATHER journal

・ACQTASTE
・The Weekender
※文中参考資料:その1

※文中参考資料:その2
※文中参考資料:その3