【7月8日 AFP】フランス・パリのある静かな通りで、6年前に自身の“素敵な”ロングヘアをばっさり切ったというモデルのタミ-・グラウザー(Tamy Glauser)が、即興でキャットウォークのテクニックを披露した。  彼女はまず、スキニーでエッジィな最新のメンズファッションを身に纏い、腕をふり、体を横から横へと微かに揺らしながら軽やかに歩いて見せた。次に、頭をぐっと上げ、肩を後ろにずらして腰を前に突き出し、表情を変えると、彼女はたちまちしなやかでとても女性らしい姿に変貌した。 ■メンズのショーに起用される女性モデルたち  現在28歳のタミ―は、モデルを目指した時、モデル業界では年をとりすぎているといわれたこともある。しかし、ジュネーブのナイトクラブを去ってわずか一年で、彼女は大手モデル事務所フォード(Ford Models)に所属し、数々のショーに出演して経験を重ねてきた。  ボーイッシュなルックスのタミーは、中性的な魅力を持ちながらメンズファッションショーの需要にも応える少数の女性モデルとなった。タミーは、ケイシー・レグラー(Casey Legler)やサスキア・デ・ブロウ(Saskia de Brauw)、ジェニー・シミズ(Jenny Shimizu)、アシュリー・グッド(Ashleigh Good)といったモデルとともに、まるで小さな「ムーヴメント」を起こしているようだという。  「中性的ということを意識はしていません」。スキニーデニムにノースリーブ、ブーツ、ニット帽という私服スタイルでインタビューに答えるタミー。「私は、いまの美しさというのは個性と深く関係していると思います。純粋に美しいものも勿論美しいと感じますが、私には少し退屈に思えます」 ■バイト探しが一転、引っ張りだこの人気モデルに  一年前、元スイス代表水泳チームの一員だったタミーは、二回中退した大学に最後の挑戦をしようとベルリンに引っ越す準備をしていた。エージェントに勤める友人から、学費を稼ぐためにモデルの仕事をしてみたらどうかと薦められ、写真を送ってみると、軽いアルバイトどころかフォードの目に留まった。  その後わずか数か月で、彼女はパリで「ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)」や「ジャンポール・ゴルチエ(Jean-Paul Gaultier)」などトップブランドのキャットウォークを歩き、「ジバンシィ(Givenchy)」のメンズ・ショーにも起用された。「なぜこうなったのかまったくわかりません。でもメンズのモデルはずっとしてみたいと思っていました。普段から男の子のようなファッションをしているので、しっくりきました」とタミーは語る。 ■ファッション業界における美意識の変化  フォードのレディース部門責任者を務めるスティーブン・カノー(Steeven Kanoo)は、「1990年代は人々に共通した美意識がありましたが、エディ・スリマン(Hedi Slimane)が極めてエッジィでスキニーな男性を起用してから、何かが変化し始めました」と業界の美意識の変化についてコメント。エディは2000年~2007年に手がけた「ディオール オム(Dior Homme)」でメンズ界に革命を起こしたと言われており、現在手がける「サンローラン(Saint Laurent)」では、業界基準でも一際細身のモデルを使うことで知られている。  スティーブンはさらに「その後、強い個性のある女性たちが出てきてました。皆が同じ共通した美意識を持っていることに疲れ、それをばかばかしく感じるようになったのです。そして、『もう少し特別なものを求めよう』という意識が生まれたのです」と語る。「今では一見奇抜でも、写真ではとても素晴らしい作品になることもあり、より個性的であることが求められています。時代は変わりましたが、ファッションは巡るものなのでまた必ず90年代に戻ると思いますが・・・」と、彼は付け加えた。  自由人で一か所に長く留まれないと語るタミーにとって“モデル”は、大学生という生き方よりも彼女に合っているようだ。「ファッションの世界は、まるで違う惑星であるかのように全く異なるものです。でもだからこそ、居心地がいいんです」と最後にタミーは語った。(c)AFP/Helen ROWE