【2月13日 AFP】弓矢を持ち、いたずら好きな表情を浮かべる羽が付いた赤ちゃん──と聞くと、バレンタインデーのカードに描かれたイラストを思い浮かべるかもしれないが、それは間違い。実はこれ、米ニューヨーク(New York)で展示されている2000年以上前のブロンズ像のことだ。

 メトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art)で開催中の展覧会「Changing Image of Eros, Ancient Greek God of Love, from Antiquity to Renaissance」(古代ギリシャの愛の神、エロスの姿の変遷:古代からルネサンス期まで)は、私たちの知る「愛」は永遠に続くだけではなく、永遠の昔からその姿を変えていないことを教えてくれる。

 6月23日まで開催される展覧会の目玉は、眠る幼い少年の姿をしたエロスを表現した等身大のブロンズ像だ。ぽっちゃりした足を石の上に投げ出し、羽は片方を体に横たえ、もう片方は体の下に敷かれている。目を閉じた像は、ギリシャ時代のものとしては珍しい。口は軽く開き、弓がこぼれ落ちた手をだらりと垂らしている。

「仕事の最中に昼寝をしているのです」と、学芸員で考古学者のショーン・ヘミングウェイ(Sean Hemingway)氏は説明する。ギリシャ神話におけるエロスの仕事は、恋に悩める現代っ子にも想像がつくだろう。「恋の矢」を射抜くことだ。

 しかし、エロスが2本の矢を持っていたことは、あまり知られていない。「金の矢尻と、鉛の矢尻が付いた矢があります。金の矢は欲望を燃え上がらせ、鉛の矢は恋を寄せつけなくさせるのです」(ヘミングウェイ氏)

 エーゲ海のロードス(Rhodes)島で見つかった紀元前3~2世紀のこのブロンズ像が捉えているエロスの姿には、ローマ時代のキューピッドを経て、ルネサンス期の絵画に描かれた智天使(ケルビム)、そして現代のポップカルチャーにまで引き継がれている系譜の原型がある。

 しかし、エロスは常に愛らしい姿をしていたわけではない。展覧会での説明によると、羽の生えた子供の姿をとる前のアルカイック期のギリシャ詩では「力強く、しばしば残酷で、気が変わりやすい存在」として描かれていた。子供姿のエロスは、愛の神が「地上へ降り、武器を置いた」状態を示しているという。

「愛とは普遍的な概念です」と語るヘミングウェイ氏は、米作家アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)の孫だ。「(古代)ギリシャ人は、愛を大事な神として捉えました。現代の私たちも、神としてではないが、愛を重要なものだと考え続けています。バレンタインデーが近づく今は、愛の神を思い出すのに良いときではないでしょうか」

 この古代芸術と現代の恋愛信仰にはもう一つ、つながりがある。ヘミングウェイ氏によると、像が作られたと考えられている島の名「ロードス」とは、ギリシャ語で「バラ」を意味するという。(c)AFP/Sebastian Smith