【12月30日 AFP】昨年ニュージーランドで起きた「クライストチャーチ地震」で崩壊した大聖堂の再設計を任された日本人建築家・坂茂(Shigeru Ban)氏(55)は建設資材として最も意外な「紙管」を選んだ。

 ニュージーランド南島クライストチャーチ(Christchurch)にあった、地元産玄武岩による荘厳なネオ・ゴシック建築の大聖堂は昨年2月22日、185人の犠牲者を出したマグニチュード(M)6.3の地震で崩れ落ちた。

 代わりとなる仮設聖堂を緊急に必要としている聖公会(Anglican Church)に依頼された坂氏は、その設計を無償で引き受けた。そして今、地震の爪痕が残る街に「ボール紙」の聖堂が姿を現しつつある。

■世界的な「紙の建築家」による災害支援

 米紙ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)やタイム(Time)誌などからも高い評価を受け世界的に著名な坂氏は、オフィスビルや観光リゾートなど大規模な商業プロジェクトを手掛ける一方で、災害の被災地に短時間で建設可能な緊急仮設建築の草分け的存在としても知られる。

 1990年代半ば、ルワンダ虐殺(Rwandan Genocide)の後に国連(UN)と共に難民のためのシェルターを首都キガリ(Kigali)に建設したことを皮切りに、その後も阪神・淡路大震災やトルコ大地震などで多数の人道支援活動に関わってきた。

 クライストチャーチ地震でも、打撃を受けた地域社会の復興を建築家として支援し得る方法がこの聖堂建設だと坂氏は語る。

「私の社会的責任の一部です。私たち(建築家)は普段、どちらかといえば恵まれた人たちのために建物を設計しています…そして、そういった人々は自分の力や財力を、モニュメンタルな建築のために使っています。しかし、建築家はもっと公共のもの…自然災害で自宅を失った人たちのために建物を作るべきだと思うのです」

 地震のような自然災害の多くは、人間が作り出した構造物や建築物の不備などによって被害が拡大すると坂氏は指摘する。だからこそ建築家には被災した人たちを支援する義務があるという。

「人々は地震で死ぬのではなく、崩壊した建物によって死ぬのです。それ(支援)は建築家の責任なのに、被災者が仮設の建物を必要とする時には建築家がいない。被災者が仮設住宅を求めている時でさえ建築家は、恵まれた人たちのための仕事ばかりに忙しいからです」

■構造材はビールケースと紙管

 坂氏が考案する緊急建築によく使用されるのはリサイクル素材だ。1995年の阪神・淡路大震災後には、輸送用コンテナやビールケースなどに土のうを詰めて、シェルターの基礎部分として利用した。

 中でも特徴的な素材は、通常は建材とは考えられることのない「紙管」と呼ばれるボール紙の筒だ。材木や鉄筋・鉄骨といった従来の建材とは異なり、世界中どこでも、災害直後でも容易に入手しやすいという。さらに紙は軽量で安価だ。

 イタリア・ラクイラ(L'Aquila)のコンサートホールから中国・四川省成都(Chengdu)の学校校舎、わずか5週間で建設を終えた神戸の「紙の教会」まで、紙管は坂氏が手掛けたさまざまな建築物に使われている。

 クライストチャーチ大聖堂に代わる仮の聖堂に使われるのは、防水処理を施した直径600ミリの不燃性の紙管。700人の収容が可能な「紙の聖堂」は、横からみると「A」の字のような形をしたシンプルな設計だ。

 基礎部分はコンクリートで造り、Aの字を作るように紙管を組む。壁部分はコンテナで支え、一方の壁面にはステンドグラスを入れる計画だ。さらに聖堂を風雨や日光から保護する屋根には、ポリカーボネート製の板を張る。耐久年数はおよそ50年。

 当初の石造りの大聖堂が献堂されてから132年目となる来年4月に完成の予定で、坂氏が設計した紙の建築物の中では最大規模となる。地元の建設業者が工費の値引きを申し出たことから約500万ニュージーランド・ドル(約3億5200万円)となった建築費は、教会が受け取る保険金と一般からの義援金で賄われる。

 教会側は新たな聖堂が建設されるまでの10年間に限定して「紙の聖堂」を使用する考えだが、画期的なこの聖堂がニュージーランド国内で受け入れられれば、計画は変わるかもしれないと坂氏は期待している。「多くの人が気に入ってくれれば、恒久的な建築物になるかもしれません。そうなってほしいと願っています」。(c)AFP/Neil Sands