【10月19日 MODE PRESS】
~ラグジュアリー離れは急激に進む~

 では、実際にラグジュアリー離れはどの程度進んでいるのだろうか。日本の状況を数字で見てみよう。矢野経済研究所が今年7月に発表した「日本における欧米からのインポートブランド(衣料品・服飾雑貨)市場規模の推移」によると、欧米からのインポートブランドの売り上げは、1997年が1兆6612億円であるのに対し、2011年の同市場規模は9000億円、今年2012年の同市場規模予想では8955億とされている。15年でほぼ半分になっているのがわかる。

 また女性の調査でもファッション消費が減っているのが顕著だ。サンケイリビング新聞社が今年5月に行なった795人のOLへの調査によると、「自由に使えるお金の使い道」で5年前は「洋服の購入」が1位だったが、今年の調査ではそれが5位に後退している。※参照リンク(1)

 さらにアメリカン・エクスプレス(American Express)が世界6か国で行なった消費者調査によると、日本での調査では高級品を購入するときの選択基準において、半数近くの人がブランドよりも個性・希少性で商品を選択する傾向を持つようになっているという。※参照リンク(2)

 これらの調査が示すように、日本国内における欧米のラグジュアリーの売り上げは半分になり、OLのファッション支出も激減し、さらにラグジュアリー製品を買う場合でも、ブランド名を重視しないという傾向が見て取れる。

~ラグジュアリーの魔法が解けた~

 この急激に進行するラグジュアリー離れの背景には何があるのか。『WWD JAPAN』編集委員で、ファッション消費分析の第一人者である三浦彰氏に話を伺った。

 「かつては日本の中流階級が分厚くて、それへのラグジュアリー・ブランドのマーケティングが驚くほどうまくいった。具体的にはハンドバッグをキイアイテムにした大衆化路線という方法論がとてもはまったのだが、限界が来た。ラグジュアリー・ブランドは消費者に魔法をかけていたのだけれど、その魔法が解けて、消費者が醒めてしまった。なぜかというと日本の中流階級がぶっこわれてしまって、中流がいなくなったから。そして日本に富裕層は確かにいるのだけれど、層は薄い。だからハイジュエリーは堅調に推移しているけれど、中流階級を相手にしているブランドが難しくなった。今や若い女性に“自分にご褒美”という動機はもうない。生活保護を受けながらヴィトンのバッグを持っている人もいたけれども、もういないからね」

 そう聞くとファッションの未来は暗いばかりのような気もするが、いくつか新しくポジティブな兆しは見えてきているという。

 「ファッションのEコマースやアウトレット、そして古着が伸びているというのが最近の特徴で、単なる節約志向ではないと思っている。そして最近増えているライフスタイル型セレクトショップは成功しているので、物語があるところに人は向かっている。これからは物語を介したコミュニケーション消費が切り口になると思う」

~ラグジュアリーは情報の動脈硬化~

 「ラグジュアリー・ファッションは、数年前に出版業界や音楽業界が陥った情報の動脈硬化を起こしている」と書くのは、ヨーロッパを中心に行なわれているソーシャル・メディアのコンベンション「ソーシャル・メディア・ウィーク」の公式サイトでのブロガー、ベッキー・ストレイバーズの言葉。「未来のファッションはもっと人々とソーシャルかつエモーショナルにつながるべきだ」と提案している。※参照リンク(3)

 つまり今のファッションは、ソーシャルにもエモーショナルにも機能してないというわけか。ソーシャル・メディアのほうが、ファッションよりもその人を語る速い言語になった今、ファッションはどのようなコミュニケーションを作れるのだろうか。

 『ジェネレーションX』や『マイクロサーフ』などの同時代の生き方に焦点を当てた作品を次々と手がける作家のダグラス・クープランドはファッションについてこう語っている。

 「一度自分のルックを確立したら、皆がそのルックをその人自身のものだと認識してくれる。そうなれば、人はファッションなんて考える必要はない」

 では一度ソーシャル・メディア上で自分の人格を確立したら、どうなるか。そしてそれが実際にソーシャルでエモーショナルと人々に認められるのであれば。そう、誰もファッションを考えない時代がすぐにも訪れようとしている。(終)【菅付雅信】

プロフィール
編集者。1964年生れ。元『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』編集長。出版からウェブ、広告、展覧会までを“編集”する。編集した本では 『六本木ヒルズ×篠山紀信』、北村道子『衣裳術』、津田大介『情報の呼吸法』、グリーンズ『ソーシャルデザイン』など。現在フリーマガジン『メトロミニッ ツ』のクリエイティヴ・ディレクターも努める。連載は『WWD JAPAN』『コマーシャルフォト』。著書に『東京の編集』『編集天国』『はじめての編集』がある。
(c)MODE PRESS
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【記事参照】 ※すべて外部サイト
参照リンク(1) サンケイリビング新聞社が今年5月に行なった795人のOLへの調査
参照リンク(2) アメリカン・エクスプレスが世界6カ国で行なった消費者調査
参照リンク(3) 「ソーシャル・メディア・ウィーク」