【9月21日 MODE PRESS】数あるショコラティエのなかでも、多くの日本人から支持されているブランド「ジャン=ポール・エヴァン(JEAN-PAUL HÉVIN)」が今年、日本上陸10周年を迎える。それまで日本では子ども向けの印象が強かったチョコレートを、カカオの味を楽しむ高級で大人向けの“ショコラ”として認知させ、日本のショコラブームをリードし続けた10年。定番商品はもちろん、独自のユーモアを交えたシーズン商品も人気が高く、クリスマスやバレンタインともなればブティックに長い行列ができるほど。8月末、そのショコラを生み出すエヴァン氏が、10周年記念商品と12/13年シーズンの新作発表会のために来日。この10年を振り返り、日本への想いやショコラ創作について話を聞いた。

-日本での10年を振り返って、 印象に残っている出来事を教えてください。

 日本初のブティックである東京・伊勢丹新宿本店のオープンのことです。その次にオープンしたブティック(福岡・小倉)でも同じでしたが、お客様がすごく長い行列を作ってくれました。聞いたところによると、最長の待ち時間で6、7時間を記録したそうです。あまりに長い行列のため、最後のお客様の入店が閉店時間を過ぎてしまったのですが、デパート側が夜遅く22時頃までオープンを延長して対応してくれました。他の国ではあり得ないことだと思い、印象に残っています。

-エヴァンさんにとって、日本や日本人はどんな存在ですか?

 日本人は舌が肥えていて、ショコラに限らず食全体において洗練された味覚を持っています。私の日本進出は偶然ではなく、かつて日本で働いていたこともあり、どんな文化があるかを知っていた上で選んだことです。日本は、心の平和や生きていく喜びがある国でもありますし、何よりも美味しいものがわかる方が多く住んでいる国です。“洗練”というものがある。これは、どこの国にもあるものではありません。私にとって日本は、喜びを得られる場所であり、大好きな場所です。

 また日本人は新しいものへの好奇心が強く、 意欲や情熱を持ってそれを受け入れてくれます。一方的に影響を受けているというより、意見や感覚を交換し、互いに共鳴できる存在であると感じています。

-10周年記念商品で、“カカオ”にこだわった理由を教えてください。

 まずひとつの理由として、“旅”をテーマにしたいという想いがありました。そしてもうひとつ、基本的で肝心なものにフォーカスしたかったからです。私自身、これまでいろいろなカカオ農園を訪ね、異なるカカオの味わいを発見し、喜びを感じてきました。今回、ショコラに欠かせない基本的材料であるカカオが、産地や品種、扱い方の違いによって異なる味わいが楽しめることを紹介したいと思いました。

-新しいレシピはどのように誕生するのですか?

 それはとても地道な作業です。典型的なクリエーションの方法は、テイスティングから始まります。まず、良さそうなカカオ豆を見つけたら、それをすり潰し、カカオ配合量を60%、70%、75%など異なるショコラを作り、テイスティングしてそのカカオに合ったパーセンテージを見つけ出します。そして、スパイシーさや味の強さなどそれぞれの“個性”に合わせ、「ガトーに向くのか、タブレットがいいのか・・・」とどの製品にすれば最もおいしくなるかを考えながら創作する作業に入ります。テイスティングと試作を繰り返していくとても地道な作業です。ときには、良さそうだと思ったカカオでも製品につながらないこともあります。

- シーズン毎に変わるパッケージのデザインもご自身でされているのでしょうか?

 ほとんどの場合は、私がデッサンを描いて構想しています。友人でもあるジョン・オードというアーティスティック・ディレクターと一緒に作業しており、彼が私の発想を形にしてくれます。彼は、ロンドンやニューヨークで個展も開いているアーティストでもあり、アートにとても造詣が深い。互いの意見やアイデアをぶつけあいながら進めていくので、一人で考える以上の、より面白いものが作れます。昼間は忙しいので、夜にビストロで飲みながら話しあっていますよ。ショコラの味わいに関しては、100%私の味覚で決めていますが、デザインに関しては外部の会社に依頼するのではなく、このように進めているのは、他のメゾンとは異なる一つの特徴だと思います。 

-チョコレートと健康の関係が度々話題になりますが、 何かご意見はお持ちですか?

 ショコラが健康にとても良い影響を与えるのには、2つの要因があると思います。一つは、味わったときに「おいしい!」と幸せを感じることによる作用。日当たりの良い場所にいると気持ちが良くなったり、美味しいものを食べると幸せになったりするように、精神的な満足感が健康に与える影響は大きいです。もうひとつは、良く知られている成分的な作用です。ショコラに含まれるポリフェノールが、循環器系への作用や優れた抗酸化作用が科学的に実証されています。体に良いとされている食べ物はいろいろありますが、ショコラほどに、科学的な作用がありながら「おいしい」ものはないでしょう。

 体に良いものを求めるのであれば、 砂糖の配合が少ないものがいいです。カカオのおいしさが引き立ちますし、成分の良さもより多く得られます。日本には、甘いチョコレートが輸入されることが多かったためショコラ文化がそこまで発達していませんでしたが、日本人は味の違いがわかるので、おいしいショコラに触れる機会が増えればもっともっとショコラ文化が発達していくと思います。

【ショップ情報】
ジャン=ポール・エヴァン 三越銀座店
住所:東京都中央区銀座4-6-16 銀座三越1階
電話番号:03-3562-1111(代表)
営業時間:10:00-20:00、不定休
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