【8月26日 MODE PRESS】女性起業家がメディアで華々しく取り上げられ、会社を興すハウトゥー本が書店にずらりと並ぶ昨今。「ヴィセラ・ジャパン」代表取締役社長の武藤興子 (Kyoko Muto)さんは、フランスの自然派化粧品「ヨンカ(YON-KA)」を日本に導入すべく、たった1人で独立した女性起業家だ。

■起業は手段の一つ、目的ではない

 フランス系化粧品会社に勤めていた頃、出張先のパリでヨンカと出会い、製品とブランド精神の素晴らしさに惚れ込んだ。「自分の手で日本に広めたい」と志すも、当時既に数社がアプローチ中。個人では交渉のテーブルにつくことさえできないと悟った武藤さんは、「起業願望なんて全くなかった」にも関わらず、ヨンカの権利獲得の手段として起業を決意する。

 とはいえ、何のコネクションもない一介の日本女性に、歴史あるブランドがすんなり扉を開くはずもない。そこで武藤さんは持ち前の行動力を発揮し、門前払いにもくじけず何度も渡仏。情熱をアピールし続けた。1年後、その真摯な姿勢が実を結び、決定寸前だった他社を抑え大逆転。ビジネスパートナーとして迎えられたのが 2004年のことだ。

 会社勤めに何の不満もなく、転職すら考えていなかったという武藤さんを突き動かしたのは、ヨンカへの強い思いだった。「本当にやりたいことのために一歩踏み出すこと。自分にとって、たまたまそれが"起業"という形をとっただけなんです」

■誠実に、まっすぐに、淡々と

 そんな彼女の信条は、「誠実に、まっすぐ人と向き合うこと」。起業を決めた時、周囲から「正直すぎる性格は経営者にとって不利では?」とも言われた。だが、自分をごまかさない姿勢が「ヨンカの精神と合致したからこそ、パートナーとして信頼関係を築けたのかな」

 そして「やりたいことが見つからない」と悩む人には、目の前のことをきちんとこなす大切さを説く。武藤さん自身、ヨンカと出会って30代半ばで起業するまでは、建設、IT、大使館、化粧品と業界を変えながら、「場当たり的に転職を続けてきた」という。「毎日を淡々とこなす。その積み重ねで見えてくるものがあるはず。やりたいことが見つからないと焦る必要はないんです」

■覚悟と信念の人

 「起業は簡単、大変なのは維持していくこと」と語る武藤さん。起業を考えている人には、「経営者として責任を負って、孤独に耐える覚悟があるか」と問いかける。会社設立後の1年間、契約が取れるかも分からないまま、無給の状態が続いた。今やっと、辛いことも含めて自分の立場を楽しむ余裕が出てきたところだ。

 インタビューで印象的だったのは、起業時の心境を語った「退路を断つ」という台詞だ。小気味いいほどきっぱりと、柔らかな笑顔で言い切る。信念のために覚悟を決めた、経営者の姿がそこにあった。(c)MODE PRESS


※「ヨンカ(YON-KA)」:フランスの植物学者によって創設された自然派化粧品で、世界約30カ国に展開する現在もパリの自社工場のみで製造を一括管理するこだわりのブランド。東京・青山に直営ショップ兼サロン「レスパス ヨンカ」がある。