【1月28日 AFP】米国の首都ワシントンD.C.(Washington D.C.)郊外にある国内最大規模の高齢者居住地区、ライダーウッド(Riderwood)の高齢者施設で、歓声が沸き上がる。遅ばせながら「テレビゲーム熱」にとりつかれたお年寄りたちが、腕を振り回しながらバーチャル版のボーリングゲームに夢中になっているのだ。

 テレビゲームは通常は若者世代向けだが、世界的に大ヒットしている新世代家庭用ゲーム機、任天堂(Nintendo)の「Wii(ウィー)」は、ここライダーウッドの居住者3000人の間で最近、大流行しているという。

 大人気の理由は、そのワイヤレス・コントローラにある。このコントローラを使えば、最低限ではあるものの、高齢者の能力範囲内で簡単に運動の動作を再現することが可能になるからだ。   

 ライダーウッドの高齢者居住地区を運営するErickson Retirement Communitiesは、同地区にWiiのゲーム機を25台設置した。高齢者同士の親交を深め、運動を促すことが狙いだ。

 今では毎週20人ほどの高齢者がWiiのゲーム機でスポーツの試合を楽しんでいる。参加者は手にしたワイヤレス・コントローラを振り回し、仮想現実の世界でバレーボールを打ち合い、ボクシングのパンチを繰り出し、野球のバットをスイングする。ボーリング大会では、対戦するチーム同士が互いにバーチャルのレーンで倒すピンの数を競い合う。

 ボーリングだけでなく、ゴルフや野球、釣り、ボクシングの「バーチャル試合」も大人気だ。

「この前は女性グループのボクシング試合があって、90歳のおばあさんが対戦相手をノックアウトしたんですよ」と話すのは、退役海軍士官のアール・デイビスさん(Earl Davis、73)。

■初めて高齢者にも浸透

 任天堂も、こうした傾向を喜ばしく思っている。同社の広報担当者は「ビデオゲームがお年寄りに積極的に受け入れられたのはこれが初めてだ」と話す。調査によると、Wiiの購入者のうち30代以上が占める割合は27%にものぼるという。

 最近の英医学誌British Medical Journalに掲載された研究報告によると、健康維持や肥満防止を目的とするならWiiよりもっと激しい運動が必要ではあるが、Wiiは基本的な運動能力などを刺激する面もあるという。

 Wiiの使い方を初心者に指導しているデイビスさんによると、Wiiでは最低限の運動しかできなくても運動に慣れていないお年寄りにとっては必要なレベルの運動だという。

 別の居住者Octogenarian Flo Lawrenceさんも同意見だ。「それほど苦労せずに体を動かせるし、満足感も得られる。それに自分の部屋から出て、みんなと一緒にいられるわ」

 車いすを使用しているMarie Tsucalasさん(93)は、最近ビデオゲームのおもしろさに目覚めたばかり。ゲーム機のコントローラーのボタンをいじりながら、「新しいことをするのが好きなの。自分の料理番組を居住地区のテレビ放送で流したり、ポーカーとかいろいろなカードゲームをしているので、とても忙しいわ」と語った。

 ライダーウッドでバーチャル・ボーリング大会が開かれると20人近くが参加するが、その中でも一番熱心でにぎやかなプレーヤーは、5人の車いす使用者だという。

「ビデオゲームはいろいろなことに役立つ」とデイビスさんは言う。「知らない人同士が笑ったり冗談を言い合ったりするような、社交の機会を設けることだってできる。それに闘争心もよみがえらせてくれる。とにかく使い方が簡単だから、誰でも使えるんだ」(c)AFP