【8月28日 AFP】(29日一部訂正)外資系高級ホテルの東京進出が相次いでいる。9月1日には日比谷の元日比谷パークビル跡に、ザ・ペニンシュラ東京(The Peninsula Tokyo)が開業。世界で最もにぎわう街、銀座界隈に、また一つ華やかな名所が加わる。

 ザ・ペニンシュラ東京は、数年前から日本への進出を狙っていた国際ホテルチェーン、香港上海ホテルズ(Hong Kong and Shanghai Hotels)が手掛ける世界で8番目のホテル。314の客室と5つのレストランに、スパも併設している。

 東京では2000年以降、規制緩和効果に加えて景気回復が追い風となり、19のホテルが開業、数十万円単位のぜいたくを惜しまない超高級志向の利用者層を獲得してきた。新規に開業する国際ホテルの宿泊料は、1泊6万円を超えることもあるが、各ホテルでは高い客室稼働率を維持している。

 国際会計事務所組織デロイトトウシュトーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)のラグジュアリー・レジャー業界担当チーフ・アナリスト、澤田竜次(Ryuji Sawada)氏は、「日本に存在していなかったラグジュアリーホテルがついに登場した。宿泊提供料金は、これまで最高とされていたホテルよりもはるかに高い」と解説する。

 もちろん東京にも、ホテルオークラやニューオータニ、フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)が設計を手掛けた帝国ホテルなど、由緒ある5つ星ホテルは存在した。これらのホテルは東京を訪れる要人や著名人にも利用されてきたが、欧米主要都市の最高級ホテルと比べると、料金は比較的低かった。

■女性客、ニューリッチ、団塊世代が新顧客層

 ホテル業界を含む日本のレジャー市場は2006年、推計80兆円規模に達した。東京への外資系ラグジュアリーホテルチェーン進出の先駆けは、1994年に新宿に開業したパークハイアット(Park Hyatt)で、映画『ロスト・イン・トランスレーション(Lost in Translation)』の舞台にもなった。

 高級ホテルの進出が後押しされたのは法改正により、建築物の大型化と、オフィススペースを含まない超高層ビル建設が許可されるようになったためだ。

 毎年、海外から東京を訪れる観光客数が過去最高を更新する一方で、ラグジュアリーホテルの宿泊客は半分以上が日本人。退職しつつある団塊の世代やニューリッチ層、キャリア指向の女性たちがニッチ市場として存在感を増している。

 ザ・プリンスパークタワー東京(The Prince Park Tower Tokyo)などのホテルはレディース限定プランなどを用意し、バレンタイン・ウイークの週末にチョコレート製ローションを使ったマッサージを提供するなど、女性向けの工夫を凝らしている。

■狭い住空間から逃れ、週末をくつろぐ

 ザ・ペニンシュラ東京(The Peninsula Tokyo)のマルコム・トンプソン(Malcolm Thompson)総支配人は言う。「日本に進出できたのは幸運だった。日本の住環境は狭いため、人々は週末にホテルを愛用してくれる。非常に快適な環境の中でリフレッシュし、くつろぐためにホテルが利用されている」。外資系ホテルの現代建築デザインが、日本人にはいっそう魅力的にアピールしているとも分析する。

 一方、細かい部分へのこだわりで知られる日本の宿泊客にリピーターになってもらうため、熾烈な競争が繰り広げられている。前述の沢田氏によると、日本の消費者は新しいものにはすぐ飛びつくが、ラグジュアリーホテルに1泊だけするという観光客も多いため、どんな顧客がどのホテルに定着するか見極めるには時間がかかるという。

 このためホテル側は部屋数を減らし、顧客一人一人に行き届いた印象を持ってもらうためのサービスに重点を置く「ブティック」感覚を追求するようになっている。

「大型ホテルを訪れる人が、野暮な印象を持たれたくないと思い、やや身構えてしまうのはよくあること。そこで、一歩足を踏み入れた瞬間からくつろいでもらい、空港のような巨大空間にいる感じを抱かせないようにすることが大切になる」とトンプソン氏は話し、ザ・ペニンシュラのロビーのシンプルだがモダンなシャンデリアに目をやった。

 ザ・ペニンシュラでは、白い制服を着たベルボーイに案内されてフロントドアをくぐるとすぐに、アフタヌーンティーで有名な同ホテルの象徴的レストラン、「ザ・ロビー」から食欲を誘う香りが流れ、心地よいリビングルームに足を踏み入れたような感覚になる。

■高品質サービスを提供できる人材確保が課題

 急成長中のラグジュアリーホテル業界にも問題はある。個別サービス化が進む中、宿泊客のさまざまな要望に応えうるクオリティの高いスタッフを集めるために、どのホテルも苦心している。「質の高いサービスへの期待は高まっている」と語るのは、IHG・ANA・ホテルズグループジャパン(Intercontinental Hotels Group ANA Japan)のクリス・モロニー(Chris Moloney)最高経営責任者(CEO)だ。

 欧州や米国のように正統的な接客法を学べるホテルスクールは、日本ではいまだに少ない。ほかの日本の企業と同様、ホテルでも従業員はまったくの素人として入社し、働きながら昇進していくのが普通だ。しかしラグジュアリーホテルでは、客の顔や名前、好みなどを即座に覚え、しかもそれらを長年覚えていることのできる熟練した従業員を必要としている。

 外資系不動産会社コリアーズ・ハリファックス(Colliers Halifax)リース部門のジェネラルマネジャー、ジェームズ・フィンク氏は「ホテルが苦労しているのは人材確保。すでに優れた人材がいるホテルでも、スタッフを入れ替える必要は常に発生する。新規参入組は、それほどスキルのないスタッフで一部を穴埋めしなければならない状況だ」と分析する。(c)AFP/Kimiko de Freytas-Tamura