【1月31日 marie claire style】パリの街は少しずつ明るさを取り戻しているものの、夜間外出禁止令、美術館や劇場等の娯楽施設の閉館、飲食店閉鎖と、まだまだ自粛モードが続いています。10月末に始まった第二次ロックダウンの際に問題となったのが「生活必需品(エッセンシャル=必要不可欠なもの)を取り扱う商店のみ営業可」という規制でした。このエッセンシャルという言葉の定義を巡る抗議がSNS上で起きました。生活必需品の定義は人それぞれで、嗜好品にあたるチョコレートショップやワインショップは営業できるのに、なぜ本屋は閉店しなくてはならないのか。第一次ロックダウンを乗り越えるのに、読書は必要不可欠だったという声が多く、本屋閉鎖に対する政府への署名運動に各界著名人が参加しました。「街の本屋を私たちで守ろう」と、大型書店や米国大手通販サイトをボイコットする動きさえも出ました。まるで映画「ユー・ガット・メール」を彷彿させるかのように、街の本屋の戦いが連日ニュースを賑わせました。

 パリにはパン屋と同じくらい数多くの本屋があります。パリ1区、リヴォリ通りのガリニャー二も1856年に開業した老舗です。ヴェニス商人がパリに辿り着き、読書クラブとして1801年に創業したのが始まり。パリで初めて英書を扱う本屋として、19世紀のロンドンの紳士貴族がパリに滞在する時の憩いの場として栄えました。英書や文学作品の他、今ではボーザールと呼ばれる美術書を取り扱っています。カール・ラガーフェルドが足繁く通い、自著のサイン会を開いたり、アラン・デュカスが新刊をチェックしたりと、ガリニャーニファンはまるで一つの巡礼地のように、リヴォリ通り224番地に訪れます。人と本の関係が一つのコミュニティを形成し、足を運ぶことで繋がり、シェアし、刺激を与え合う場所として愛されているのです。店長のダニエルは「文化こそが私のアイデンティティ」と提言し、パリ市長に本屋再開を訴えました。数日後、政府は、クリック&コレクトであれば、本屋は営業して良いと、判断したのです。

 この一連の動きで、フランス文化には知を愛する啓蒙の精神が根ざしていることを痛感しました。知的好奇心を枯渇させることなく、「知識を得る自由」にかける情熱と、その権利を守ろうと声をあげるフランス人を見て、自らが動くことの大切さを教えられました。

 ふと、「こども本の森 中之島」を開館した安藤忠雄先生の言葉を思い出しました。「あえて自ら身を運び、本を手にとって吟味する「面倒くささ」が重要。面倒くさいプロセスを経て、自分で選び、体を通して判断力を養うことが大切。」と。

 まだまだ不安定な時代が続く中で、この自らの判断力こそが思想を行動に移す時に大切な、人生に必要不可欠なことなのかも知れません。

■プロフィール
大岡陽子(Yoko Ooka)
神戸生まれ、パリ育ち。幼少期の7年間をパリで過ごす。関西学院大学フランス文学科卒業。再度渡仏し、パリ政治学院(シアンス・ポ)で広報学の修士号を取得。「バカラ」「ルイ・ヴィトン」「ルイ・ロデレール」といったラグジュアリーブランドでの研修を経て、現在はパリで最も歴史のある、最高級五つ星パラスホテル「ル・ムーリス」に入社。総支配人秘書、セールスマネージャー、アーティスティック・アドバイザーを経て、現在はコミュニケーションマネージャーとしてプレスやブランディングを担当。

■関連情報
・大岡陽子 公式インスタグラム:@mademoiselleyoko
(c)marie claire style/photos & text: Yoko Ooka