【11月26日 marie claire style】アートディレクター、デザイナーとして世界を舞台に活躍した石岡瑛子。初めての大規模な回顧展が開催中だ。多岐にわたる仕事の根底に流れるものとは。

 広告、映画や演劇、サーカスの衣装、ミュージックビデオ、そしてオリンピックのプロジェクト。東京都現代美術館で開催中の「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」は、さまざまなジャンルでクリエイティビティを発揮した石岡瑛子(1938-2012)の大回顧展だ。広告や衣装、資料の展示を通して、石岡の仕事と人生、その熱量を体感できる。

 石岡は1966年、資生堂の広告キャンペーンで頭角を現し、パルコなどの広告を手がけて鮮烈な印象を残す。80年代初頭にニューヨークへ拠点を移すと、名だたる表現者たちとコラボレーションを展開。93年にはフランシス・フォード・コッポラ監督の映画『ドラキュラ』でアカデミー賞衣装デザイン賞を受賞、2008年の北京オリンピック開会式では衣装デザインを担当した。

 コッポラは、石岡を「境界のないアーティスト」と評した。なぜ、さまざまな領域を超えられたのか。石岡瑛子とはどんな人物だったのか。生前にインタビューを重ね、このたび評伝を書き下ろしたライターの河尻亨一に話を聞いた。

「瑛子さんは、常識やルール、固定観念から解き放たれている人です。やりたいことは、世の中をあっと驚かせること。『私らしい表現をする』という強固な意志があり、全くぶれることがない」

「私らしい表現」の原点はどこにあるのか。河尻によれば、石岡にはその後の人生を予見するような幼少期の体験があったという。

「子どもの頃、瑛子さんは戦時下に山形へ疎開し、そこでいじめに遭ったそうです。母親が迎えに来た時、泥だらけの瑛子さんは花を持って、歌を歌っていた。花は美、歌はクリエイティブの象徴といえますよね。自分の武器をその時すでに感得していたのかもしれません」

 戦後はアメリカ文化の影響を色濃く受ける。母親から「自分の仕事を持ちなさい」と諭されて育ち、やがて東京藝術大学で学び、デザイナーの道へと導かれた。

 多岐にわたる仕事を手がけながらも、信念は一貫している。「タイムレス」という言葉を繰り返し唱えた。河尻はその意味をこう読み解く。

「瑛子さんは世の中の動きを捉え、そこにある本質を探り当てて、自分のデザインに落とし込んでいく。流行には流されない。時代と対峙し、時代を超えるんですね」

 代表的な仕事の一つに、マイルス・デイヴィスのアルバム『TUTU』がある。87年、ジャケットデザインでグラミー賞を受賞した。石岡は、ジャズの帝王であるマイルスを古代エジプトのファラオのマスクのように表現したいと考えた。撮影はアーヴィング・ペン。

「黒人のジャズの帝王と、白人の写真の神様。気質も対照的な2人です。スタジオで準備中、マイルスが音楽をかけたいと言い出した。ところが、アーヴィング・ペンは無音を好む人。瑛子さんが2人の間を行き来し、なんとかマイルスを説得した。撮影が始まるとマイルスは乗ってきて、スタッフも『こんな表情は見たことがない』と驚く写真が撮れた。撮影後、スタジオから降りるエレベーターの中でマイルスは瑛子さんを抱きしめたそうです」

 いつも「見たことがない」ものを作り上げた。2002年にはシルク・ドゥ・ソレイユ『ヴァレカイ』の衣装を担当。イソギンチャクや深海魚など、自然のモチーフが多く取り込まれていた。

「年齢を重ねるにつれ、自然からインスパイアされることが多くなったようです。瑛子さんはその時の関心や自身の情熱がストレートにデザインに反映される人。自分の思いに正直な〝命のデザイナー〞なんですね。自然のモチーフを独創的に表現しつつ、パフォーマンスしやすい衣装にするため、素材には工夫を重ねています。衣装スタッフも『かつてないものにトライしている』と語っていました」

 北京オリンピックを前に応じたインタビューで、石岡は河尻にこう話している。

「いつも崖っぷちにつま先で立ってる。そこに踏ん張って生き残るみたいな──そんな瞬間が何度もある。クリエイティビティの本質はそういうことの中にありますから」

 生涯、圧倒的な情熱を持って取り組んだ、唯一無二の仕事。そのエキサイティングな試みの数々を目の当たりにしたい。

■展覧会情報
「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」
会場: 東京都現代美術館
会期: ~2021年2月14日(日)
https://www.mot-art-museum.jp/

■プロフィール
河尻亨一
ライター。東北芸術工科大学客員教授。元『広告批評』編集長。現在は実験型の編集レーベル「銀河ライター」を主宰し、企業コンテンツの企画制作などを行う。評伝『TIMELESS-石岡瑛子とその時代-』が発売中。

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(c)marie claire style/interview & text: Saya Tsukahara