【11月5日 marie claire style】

10月15日より、パリ装飾美術館で「LUXES」(リュックス=ラグジュアリー)という展覧会が始まりました。ラグジュアリーの歴史とその変化を紐解き、ブランドがアートや文化について語るのであれば、美術館がリュックスについて語っても良いのでは?と、2020年の今、その定義を再考することを目的とした展覧会です。

 展覧会の入り口に、現代を代表するデザイナー、マーク・ニューソンの作品「アワーグラス(Hourglass)」が飾ってあります。金の粒子を閉じ込めた、美しいフォルムのガラスの砂時計です。止められない時間は、ラテン語のメメント・モリ「死ぬことを忘れるな」を思わせ、人がいかに時間に執着しているのか、儚くこぼれ落ちてゆく一秒一秒の金の粒子が語りかけてきます。

 ローマ時代から現代まで、リュックスが社会に与えた影響から、「知性」「現代アート」「食文化」「ハイ&ロー」などの様々なテーマまで、多義的なリュックスを模索しています。知識を得ることこそが最大のリュックスという18世紀フランスの啓蒙主義から、シャネルのメティエ・ダールで発表されたカール・ラガーフェルドのドレス、またはリモワとシュプリームのスーツケース等、リュックスを人類学的に考察し、文化的意義を見出す対象として取り扱っています。クロコのケリーバッグと金継ぎしたお茶碗が、「時間をかけて愛でられるリュックス」として対比されていました。金継ぎは特にここ数年「壊れたものに新たな価値を見出す」技術として欧米で人気です。そもそもリュックスは、ラテン語のLuxus=分断したもの、から派生した言葉。このウィズコロナの時代も、金継ぎのように、分裂を経たからこその新たな価値創造を求める好機なのかもしれません。

 豪奢なもの、憧れの対象、欲しい時間、期待値、安らげる場所。。。所有欲を刺激するモノと精神的に必要なコト。その境界線を行き来しながら、私たちは自分だけのリュックスの世界、言わば好奇心の小宇宙を築いているのではないでしょうか。自分の感性に響く物事に出会うと、それをシェアすることで、ある種のコミュニティに属します。そして同じもので共鳴し合う仲間と信頼関係を結ぶことで、心地の良い居場所を見つけます。世界が不安定な2020年のリュックスの定義は、信頼や安心に基づいた、自分にとって意味のある生き方を日々目指す時間や心の余裕なのかもしれません。メメント・モリ「死ぬことを忘れるな」というのであれば、カルペ・ディエム「今を楽しむ」。自分の小宇宙から今生まれるこの喜びは、次の瞬間には想い出となり、何処にでも持っていける自分にとっての最高のリュックスなのだと思うのです。

 先日のこと。いつもなら星付きレストランで誕生日ディナーを開催する友人から連絡がありました。「ロックダウンが終わったら、ルーヴル美術館を皆で散歩しよう。皆に見せたい、大好きな絵があるの」。素敵な誕生日の祝い方だなぁ、と思いました。

 あなたにとってのリュックスは何ですか?

■プロフィール
大岡陽子(Yoko Ooka)
神戸生まれ、パリ育ち。幼少期の7年間をパリで過ごす。関西学院大学フランス文学科卒業。再度渡仏し、パリ政治学院(シアンス・ポ)で広報学の修士号を取得。「バカラ」「ルイ・ヴィトン」「ルイ・ロデレール」といったラグジュアリーブランドでの研修を経て、現在はパリで最も歴史のある、最高級五つ星パラスホテル「ル・ムーリス」に入社。総支配人秘書、セールスマネージャー、アーティスティック・アドバイザーを経て、現在はコミュニケーションマネージャーとしてプレスやブランディングを担当。

■関連情報
・大岡陽子 公式インスタグラム:@mademoiselleyoko
(c)marie claire style/photos & text: Yoko Ooka