【8月21日 marie claire style】夏のバカンスも終わりに近づいてきたフランス。ロックダウンを終え、今秋より本格的な経済復活を目指す中で、エコロジーを意識したプロジェクトが各方面で目立ちます。

 7月中旬、フランスが誇るデザイナーのジャックムスは、オワーズ県の壮大な麦畑でメンズ・レディースコレクションを発表しました。イベントプロデューサーの奇才べタックが手掛けたのは、麦畑を潜り抜けるようなランウェイ。麦畑は農業大国フランスでは見慣れた風景で、麦穂は豊穣・自然・幸福の印であり、自然への回帰を彷彿させます。農家の子として育ったジャックムスは、ファッション産業が与える環境負荷を考慮し、コレクションの数を少なくし、スタッフがプレッシャーと戦う精神的な負担も減らしたいとのこと。麦畑を通して「シンプルで在りたい」と願う想いが伝わってくるコレクションとなり、大きな話題となりました。

 文化芸術界では、エコロジーを意識した作品がここ数年のテーマとなっています。ルーヴル・アブダビとパリのシャトレ座は、英国のデジタルアーティストUmbrelliumと共に、木が歌い始める"Singing Trees"プロジェクトを、この9月にお披露目します。パレ・ロワイヤル公園の50本の木々には、空気が良質だと歌い、悪い時には沈黙し、木に近づく人間の体温でまた歌い出すという、AR(拡張現実)技術がプログラミングされるとのこと!音楽制作と科学研究のイノベーションで世界最先端のIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)との共同プロジェクトです。科学的視点を取り入れながら、自然の声に耳を傾けることを市民に意識させる、インタラクティブなアートです。

 また、ル・ムーリス アラン・デュカスのレストランでは、この9月より、食材の95%以上はフランス産を利用すること発表しました。地元の生産者を応援すること、フランスの季節の素材をふんだんに取り入れること、物流ルートを短くすること。春に美味しい苺をあえて冬のデザートに使い、中南米産のアボカドを通年食べることの意味とは?一つ一つの素材と向き合いながら、自問自答を繰り返しています。お客様に最高の食材で、フランス料理の真髄を味わって頂くのは勿論のこと、飲食業界に従事する私たちは、今こそアクションを起こす責任があります。それに、ラグジュアリー業界という発信力のある立場にいるからこその使命だと感じるのです。

 私たちを取り巻く衣食住の世界で、経済を考えながらも、効率性や生産性とは異なるベクトルに向かう挑戦。定点観測を続け、人が想像しうることを無限に広げてくれるテクノロジーを上手に使いながら、様々な可能性を信じたいと思います。フランスでは「古き良き」を現代にアップデートしながら、文化を意識し、時代の流れにあった物語をどう美しく紡ぐかを考えています。そこには、社会的および産業的に幅広く貢献したいという、ノブレス・オブリージュの精神すら感じます。自然を愛することから始まる意識改革。発想の転換で、世界がより美しく、人間的に、そして面白く見える気がするのです。

■プロフィール
大岡陽子(Yoko Ooka)
神戸生まれ、パリ育ち。幼少期の7年間をパリで過ごす。関西学院大学フランス文学科卒業。再度渡仏し、パリ政治学院(シアンス・ポ)で広報学の修士号を取得。「バカラ」「ルイ・ヴィトン」「ルイ・ロデレール」といったラグジュアリーブランドでの研修を経て、現在はパリで最も歴史のある、最高級五つ星パラスホテル「ル・ムーリス」に入社。総支配人秘書、セールスマネージャー、アーティスティック・アドバイザーを経て、現在はコミュニケーションマネージャーとしてプレスやブランディングを担当。

■関連情報
・大岡陽子 公式インスタグラム:@mademoiselleyoko
(c)marie claire style/photos & text: Yoko Ooka