【8月14日 marie claire style】少し前、ネットで日本の新聞を見ていたら、オードリー・ヘプバーンの『ザ・ベスト・オブ・オードリー』という本が出版されるという記事を見つけた。子供の頃から彼女の大ファンだった私は、日本の友人に頼んでその本を購入してもらった。しばらくして我が家に届いたが、とても大きく分厚い本だった。

 小学生の時、母に連れられ見に行った映画『ローマの休日』は、あまりにも素晴らしく、すっかり私はオードリーの大ファンになってしまった。オードリーが演じるアン王女は、優雅で気品があり美しく、ユーモアがありキュート! オードリーにぴったりの役だった。私は、初めてローマに行った時、アン王女の真似をして、スペイン広場の階段で、アイスクリームを食べ、ベスパに乗ってみたりもした。それ以来、彼女の主演映画が上映されるたびに、映画館へ飛んで見に行った。エレガントでチャーミングな彼女に、毎回魅了されていたのだ。

 オードリーは、当時人気のあったマリリン・モンローやエリザベス・テイラーといったセクシーな女優達とは異なり、スラリと背が高く、細くて長い、今にして思えばモデル的体型だった。ハンフリー・ボガートと共演した『麗しのサブリナ』では、タイツのように細いパンタロンをはくシーンがあり、パンタロンはサブリナパンツと呼ばれ大流行した。『パリの恋人』の英語の原題は『ファニー・フェイス』、大きな瞳、細長い首、彼女の美しさは独特で個性的、オードリーにピッタリのタイトルだった。この映画の中のオードリーは、共産主義に憧れる本屋の店員だったが、フレッド・アステア演じるファッション・カメラマンにパリに連れて行かれ、ファッションモデルになってしまう。映画の中でフレッド・アステアが撮影したファッション写真は、実際にはリチャード・アヴェドンが撮影したものだ。

 数年前、パリでアヴェドンの写真展が行われた時、『パリの恋人』で撮影した写真が展示されていて懐かしかった。

 この記事を書くにあたり、オードリーのDVDを取り出し、久しぶりに見てみた。『麗しのサブリナ』『パリの恋人』『昼下がりの情事』『シャレード』『パリで一緒に』『おしゃれ泥棒』と見ていると、パリが舞台の作品が多いことに気がついた。モデルのようにスタイルの良いオードリーには、パリが似合うからなのだろうか?当時これらの映画が撮られた頃、パリはオート・クチュールの全盛時代、おしゃれな彼女に、ぴったりだったのだろう。オードリーの映画での相手役は、何故か著名な年上の男優が多く、ハンフリー・ボガート、フレッド・アステア、ゲイリー・クーパー等の大物男優が共演している。

 『昼下がりの情事』でのオードリーは、モーリス・シュヴァリエを父に持つ、フランス人の役を演じている。この映画の中で彼女は、アリアーヌという役名だったが、頭に被ったスカーフの先を首に巻いていた。このスカーフの巻き方は"アリアーヌ巻き"と名付けられ、当時流行した。相手役はゲイリー・クーパー、パリのヴァンドーム広場にあるホテル・リッツにスイートの部屋をとる大富豪の役。廊下にルイ・ヴィトンの大きなスーツケースが置いてあった。当時私はルイ・ヴィトンを知らなかったが、LVのマークは印象的だった。

 後年、私がパリに住み始めたころ、ホテル・リッツを見に行った。ルイ・ヴィトンの店にも行き、小さなボストンバックを購入した。今でも持っているが、かなり痛んでしまい、戸棚の奥に収まっている。

 『ティファニーで朝食を』の、さらにおしゃれなオードリーにも、私はすっかり魅了された。ヘンリー・マンシーニ作曲の『ムーン・リバー』を、ギターを弾きながら窓辺で歌うシーンのオードリーを忘れられない。ヘンリー・マンシーニは、オードリー主演のいくつか映画の作曲をしているが、どの曲も美しく、少し切ない心に響く曲。映画を見終わり映画館を出る時、思わず口ずさんでしまう事もあった。『ティファニーで朝食を』の原作は、トルーマン・カポーティと知り、すぐ本を読んだ。映画はハッピーエンドだが、本の中の主人公ホリー・ゴライトリーは、恋人と別れ、ニューヨークを去り、アフリカに行ってしまう。この映画は、朝帰りのドレス姿のオードリーが、ティファニーのショーウインドーを覗きながら、紙コップのコーヒーを飲み、クロワッサンを食べるところから始まる。仏マリ・クレール誌の撮影でニューヨークに行った時、私はティファニーのショーウインドーを覗きながら、紙コップのコーヒーを飲んだ。

 『麗しのサブリナ』以来、『パリの恋人』『昼下がりの情事』『ティファニーで朝食を』『シャレード』『パリで一緒に』『おしゃれ泥棒』など、長年オードリーの、映画でのコスチュームのデザインをしたのは、ユベール・ド・ジバンシィ。ジバンシィのデザインした服を着て、演技するオードリーは、美しくシックだった。

 子供の頃から、服に興味を持ち、仕立て屋さんに注文したりしていた私は、すっかりオードリーに夢中になり、何度も同じ映画を見に映画館に通った。

 後年、私はパリで仏マリ・クレール誌の編集者になり、ジバンシィのショーを見に行く機会を得たが、ショーの終わりに、ジバンシィ本人が登場した時には大感激した。『いつも二人で』は、フランスの名所で撮影された映画。アルバート・フィ二ーとオードリー・ヘプバーンは、ヒッチハイクで知り合い、やがて恋人となり結婚し、年月を経るごとにお金持ちになり、衣装と車が高級になってゆく。2人の人生が時空を超え、時間が行き来しながら描かれている。この映画の終わりのほうで、オードリーは、それまでとは異なる、パコ・ラバンヌ、マリー・クワントなどのミニのドレスを着ている。

 どの映画の中でも、オードリーの衣服の着こなしは抜群。気品に満ち、美しくてチャーミング。その魅力は、今も少しも変わらず輝いている。

■プロフィール
山崎真子(Yamazaki Mako)仏版『マリ・クレール』元ファッション・エディター、副編集長。日本の美術大学を卒業後、一般企業に就職。1968年に渡仏。テキスタイル会社に勤務後、フリーのスタイリストとして活躍する。85年「マリ・クレール アルバム」社に入社。サラ・ムーンやピーター・リンドバーグなど一流のカメラマンたちと仕事を重ね、『マリ・クレール』の黄金時代を代表する作品を創り上げた。2014年に同社を退職。現在は執筆活動に従事。

■関連情報
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(c)marie claire style/text: Mako Yamazaki