【6月25日 marie claire style】新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が出され、国民は自粛生活を余儀なくされた。私も2つの新作映画(『劇場』『窮鼠はチーズの夢を見る』)、ディレクターを務める「くまもと復興映画祭」が延期になりかなり落ち込んでいた。そんなとき『世界の中心で、愛をさけぶ』や『春の雪』などの脚本家の伊藤ちひろさんから、今だったら人気の俳優たちもきっと自宅で悶々としているはず、今だからできる作品があるのではと企画を提案された。それをきっかけに、私たちはすぐに脚本に取り掛かり3日で完成させ、信頼できる俳優たちに参加を呼びかけた。こういう時だからこそ、新作を作ってみんなを喜ばせてみよう。ある意味、これは俺たちの力試しだ。そんな言葉を高良健吾、永山絢斗、浅香航大、アフロ(MOROHA)、柄本佑、有村架純に投げかけると、彼らはすぐに快諾してくれた。

 私たちは企画立案から2週間弱で撮影までこぎつけた。監督である私とすべての俳優はそれぞれの場所から"Zoom"というオンライン会議システムのアプリを使ってインターネット上で繫がり撮影した。俳優たちはパソコンの前に座り衣装もメイクも自前、カメラアングルも自分で決めた。撮影も照明も録音も美術もない不完全なカタチだが、俳優の自主性に頼った新しい映画作りだった。始まったらカットと声をかけるまで続く演劇的な新しいスタイル。内容は好きな映画の話や昔の恋についての会話劇。私はコロナの不安とかけ離れた、どうでもいい何気ない物語を描きたかった。

 作品のタイトル『きょうのできごと a day in thehome』は、私が2004年に発表した柴崎友香原作の映画『きょうのできごと a day on the planet』からつけられた。その映画は9・11アメリカ同時多発テロ事件の直後に制作された。コロナ禍で作られる今回の作品と災禍の中で作られているところが似ているのと、世界が非日常と化した今、かつての日常がいかに豊かだったのかを感じられる作品になるといい、そしてこの作品が我慢して自粛している人たちの一助になればと思ったのだ。

「映画館で映画が観たい」と登場人物たちは度々口にする。映画どころではないと今は思っていても、いつかまた映画館で映画を観たいと思ってくれたらという私の想いが強かったのかもしれない。第2弾として公開した『いまだったら言える気がする』にもそのセリフはある。中井貴一演じる小説家とコロナによって舞台が中止になった二階堂ふみ演じる舞台女優、オンラインで繫がったふたりの会話の中では、映画『マグノリア』を公開時に映画館で観たかったと女優がつぶやき、公開当時に映画館で観た小説家は映画館でしか味わえない映画体験を熱く語っている。

 このコロナにおける難で映画界はかなり疲弊している。映画館、特にミニシアターは困窮し、次に配給会社、制作現場へと連鎖していくだろう。それでも、我々は映画を撮り続ける。映画がない世界なんて想像ができないからだ。私にとって映画館は学校のようなところ。様々な世界を知り、様々な感情や生き方を学び、映画に何度も救われてきた。暗闇の中で大きなスクリーンに映し出された映画と向き合う。それが映画のすべてだ。

 こんな時だからこそ映画は観る人々を楽しませ癒やすことができるのではないか。私は映画にその力があることを信じている。

■映画情報
・『きょうのできごと a day in the home』
・『いまだったら言える気がする』
YouTubeの期間限定公開は終了し、現在は動画配信サービス「Hulu」にてインタビュー映像とともに配信されています

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回佂山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』、18年は岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』が公開。待機作として『窮鼠はチーズの夢を見る』と又吉直樹原作の『劇場』が2020年公開予定。

■関連情報
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada