【5月28日 marie claire style】1985年、ロンドン生まれ。俳優の父と脚本家の母のもと、幼い頃から演技に目覚め、6歳で子役としてデビュー。『スター・ウォーズ エピソード1』でナタリー・ポートマン演じるアミダラ女王の影武者役を務めた後、2002年『ベッカムに恋して』で主演し、脚光を浴びた。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでハリウッドのトップスターの仲間入りを果たし、以後多くの名作に出演する。「シャネル」のフレグランスやジュエリーのキャンペーンでもお馴染み。13年に結婚、2児の母でもある。新作の『オフィシャル・シークレット』ではヒロインを熱演し、ますますその活躍から目が離せない女優、キーラ・ナイトレイの素顔に迫る。

 「トニー・ブレアが首相になったのは私が12歳の時だった。通りから人の喜びの叫びが聞こえてきて、それは私の両親のような人々の希望だったの。私の家族は政治的には左寄りだったし、保守党政権がそれまで18年も続いていたから」と1997年英国総選挙で労働党政府が発足した当時のことを振り返るのはキーラ・ナイトレイ。「ブレア元首相が北アイルランド和平をすすめ、ベルファスト合意にこぎつけた業績は偉大だと思う。ところがイラク戦争という悲劇が起こり、それが国民の大きな期待を裏切ることになった。私は法律の専門家ではないけれど、大量破壊兵器などなかったのに英国はイラク戦争に参戦した。その責任は誰がとるのか、その点から考えても、彼に対する国民からの信頼に大きなひびが入ったと思う」

 彼女がブレア元首相について語るのは、新作『オフィシャル・シークレット』でキャサリン・ガンという人物を演じるからだ。時は2003年、イラク戦争にブレア首相率いる英政府が参戦するかどうかを決定する前夜のこと。キャサリンは英国諜報機関GCHQ(政府通信本部)で翻訳の仕事に携わっていた。そこで英米の間で交わされたイラク戦争参戦を左右する裏工作に関する外交機密を目にし、戦争回避を願う彼女はこれをマスコミに漏洩するのだ。よって国家機密を漏洩した理由で英政府から訴えられる。04年2月の裁判で有罪が予想されていたものの、証拠不十分という理由で政府側が訴えを取り下げる結果となった。映画はこの一部始終を追う。

 政治上重大な事件に関わった人物であるにもかかわらず、英国でもキャサリンの知名度は比較的低い。「私自身、自分がこの話を知らなかったことに驚いた。イラク戦争が起こった時、私は18歳で、当時は政治に強い関心があったし、イラク戦争の動向についてニュースを追っていた。にもかかわらずこの話を知らなかったの。キャサリンについて一切知らなかった。だから今この話に光をあてたいと感じたの」とキーラは告白する。

 この役を演じるにあたり、実際にキャサリン本人にも会ったという。「彼女と会うのは不思議な体験だった。彼女は現在もオフィシャル・シークレット・アクト(公務秘密法)に拘束されている。当時のことは一切話せないの。例えば具体的に誰に情報を渡したとか、自分の意見とか、それらの会話は一切できなかった。公に出ている情報以外については触れることができなかったの。だから"はい"と"いいえ"だけの曖昧な会話だったわ。でも彼女の当時の漠然とした気持ちや、家族について話したりもしたの」

 キャサリン・ガンは英国生まれで、台湾で育ち、広島で英語の教師をしていたことも。語学力を生かし、GCHQの仕事につくが、この事件で一翻訳者が自らの人生を犠牲にすることを承知でホイッスルブロワー(内部告発者)となった。米政府による個人情報収集を暴露したエドワード・スノーデン事件が起こる10年前のことだ。映画はキャサリンの視点で時間を追う。観客は常に、自分だったら彼女と同じ行動をとっていただろうか、と自身に問いかけるのだ。キーラの場合は?

 「分からない。誰もが彼女のようにふるまったと思いたい。でも私は自分の生活を守るために彼女とは違う道を選んだかもしれない。ほとんどの人はそうすると思う。それが人間の悲しい点だわ。多くの人は真実を語る人を賛美しようとはしない。彼らは、その後でとても苦労している。子供には真実の貴重さを教えるのに、実社会ではそれが通用していない」

 そしてキャサリンの勇敢な行動について「自分の人生を破壊したことに、ある時点で後悔したかもしれない。でもキャサリンは危険を知りつつも決心を変えなかった。自分のやっていることが正しいと信じたから。それこそが勇気だと思う」と称える。

 映画はキャサリンを軸に、英『オブザーバー』紙の記者、人権派の弁護士など、それぞれの立場と彼女との関係をからませながら描かれ、最後まで観客の心に訴えかける。

 「第三者である観客にはホイッスルブロワーの立場、そして真実を伝えたと同時に法律を破ったという両面が見える。法律を破れば罰せられるというのは当然だし、法律は理由があって法律なのであって、それを守ることが民主主義。それはつまり政府に従わなければならない、機密機関に従わなければならないということでもある。本当に興味のつきないテーマだと思うわ」

 何度となくフィクションや歴史のヒロインを演じてきたキーラ。本作に続く『Misbehaviour(原題)』では、1970年にミス・ワールド大会での抗議運動でマスコミを騒がせた英フェミニズム・グループの実在の活動家サリー・アレクサンダーを演じる。どちらも共感を生む人間的な演技が素晴らしい。

■映画情報
『オフィシャル・シークレット』 近日公開予定
配給: 東北新社 
STAR CHANNEL MOVIES

■関連情報
【無料ダウンロード】marie claire style PDFマガジンをチェック!
(c)marie claire style/ cover photo: Irvin Rivera/Contour RA by Getty Images/ text: Yuko Takano/ photo: Nick Wall (c)Official Secrets Holdings, LLC