【1月31日 marie claire style】1月27日発売のミシュランガイドでポール・ボキューズが二ツ星に降格させられるというニュースが、フランスのガストロノミー界を驚かせました。リヨン郊外、ソーヌ川沿いにあるこの名店「ローベルジュ・デュ・ポン・ド・コロンジュ」は、1965年からなんと55年間も三ツ星を守ってきた老舗です。ボキューズ氏は、料理人の社会的地位向上に努め、フランス料理という無形遺産のために尽力してきたシェフでした。2018年に亡くなってから、巨匠の料理哲学をどのように踏襲すべきか、残されたチームは模索してきました。ミシュランは常に、その時代を投影する価値ある料理を評価しています。奇抜なアイデアで星を獲得するレストランもあれば、伝統の味を何年も守り続け確かな価値を誇る老舗もあります。今回の星剥奪は、星付きレストランの在り方を改めて考える好機となりました。

 私が初めて三ツ星レストランに訪れたのは1989年。今は無き、ローヌ地方にある名店アラン・シャペルでした。幼かった私は、大人のディナーに参加できない代わりに、夕方に、完璧なテーブルセッティングが整ったサロンの一角に案内されました。この日の一番小さな客のために、アラン・シャペルが用意してくれた最高の一席でした。そこで食べたカプチーノ仕立てのキノコスープの美味しかったこと!威圧感の無い、華麗なサービスのリズムを子供ながら肌で感じました。それから、数多くのレストランへ訪れる機会に恵まれましたが、三ツ星レストランとは、料理、内装、サービスがバランス良く演じられる三位一体の総合芸術だと思うようになりました。

 19世紀の美食家として名を馳せたブリア・サヴァランは、著書「味覚の生理学」で美食家の20カ条について言及し、「誰かを招待するということは、同じ屋根の下に居る間、その人の幸福を引き受けるということである。」という名言を残しています。星付きレストランは、まさにこの一言に尽きると思うのです。旬の食材を使い、料理の技術が高く、美味しいのは当然。一皿一皿に体温を乗せられるか。心地の良い距離感でサービスができるか。

 例え二ツ星になったとしても、ポール・ボキューズの哲学を味わいたいお客様は訪れ、あの場所で過ごす数時間の魔法は色褪せない思い出となるでしょう。三ツ星を守り続けるレストランと、二ツ星から三ツ星を目指すレストランでは、熱量に違いを感じます。二ツ星だからこそ頂点を目指す情熱を持てます。いつか三ツ星に返り咲いて欲しいものです。

 そんな私たちも、様々な評価に惑わされることなく、自分自身の好みを把握し、五感を研ぎ澄ませなければと、背筋が伸びます。2020年は、ミシュラン本来の目標である、「美味しいレストランを目指して車を走らせ」、久々にポール・ボキューズへ行きたいと思います。1975年にエリゼ宮のために作られたトリュフスープV.G.Eはきっと懐かしく、幸せの味がすることでしょう。

■プロフィール
大岡陽子(Yoko Ooka)
神戸生まれ、パリ育ち。幼少期の7年間をパリで過ごす。関西学院大学フランス文学科卒業。再度渡仏し、パリ政治学院(シアンス・ポ)で広報学の修士号を取得。「バカラ」「ルイ・ヴィトン」「ルイ・ロデレール」といったラグジュアリーブランドでの研修を経て、現在はパリで最も歴史のある、最高級五つ星パラスホテル「ル・ムーリス」に入社。総支配人秘書、セールスマネージャー、アーティスティック・アドバイザーを経て、現在はコミュニケーションマネージャーとしてプレスやブランディングを担当。

■関連情報
・大岡陽子 公式インスタグラム:@mademoiselleyoko
(c)marie claire style/photos & text: Yoko Ooka