【1月10日 marie claire style】推理の迷宮に迷い込むのは、日常性からの離脱として小気味いいものだけど、ここまで緻密な構造のシナリオには滅多にお目にかかれないのではないか。

 世界的ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の作者ダン・ブラウンのシリーズ「インフェルノ」の翻訳をめぐって勃発した実話を元にドラマ化したもので、冒頭からラストまで、息をつく間もない位細工がなされていて、サスペンスの一級品といってもいい。

 瀟酒な城館の地下室に九人の翻訳家を閉じ込めて、注目のベストセラーを9カ国語に翻訳させて、各都市同時販売を目論んだ出版社社長だったが、そこに思いがけない姿のみえない謎のハッカーが現れて、大金を脅迫されてしまう。疑心暗鬼となった社長は、9人のうち、だれが裏切り者なのかと躍起になる。

 「24時間以内に500万ユーロを払わなければ、次の100頁をネットで公開する」というメールがきたからだ。

 この知的ゲームの脚本は、監督レジス・ロワンサルが2人の共同執筆者と共に入念に書き上げたものだというが、最期まで観客が騙され続けてしまうからくりはなんともお見事。作品の中心人物、悪徳出版社社長を演じているのは、フランス映画界を代表する男優のひとりランベール・ウィルソンで、先日パリにいる彼との電話インタビューで、撮影の秘話をきくことができた。

 「監督からオファーがきた時、前作「タイピスト」を観ていたので、すぐに引き受けた。シナリオを読んでないのに、ともかく監督の才能を心底信じていたからね。内容もよく知らずにスタートした撮影は、携帯もPCも持ち込むことを禁じられた地下室の入口での身体検査から始まって、撮影も映画で観た通りだったよ。ともかく緻密な演出で、はっきりいってレジスは完璧主義者だな。フランスの監督には少ないタイプだよ」

 父は名優として知られるジョルジュ・ウィルソンで、ランベールもその才能の血筋として生まれ、現在はフランス映画のみならず、「マトリックス・リローデッド」などハリウッド映画でも活躍した国際派の彼自身、フランス語、英語、スペイン語、ドイツ語、と四カ国語が話せるという。

 「現場では色んな言語が飛び交って、楽しかったよ。イタリア人のリカルドは、とてもいい奴だった。デンマーク語のシセとも親しくなった。日本人がいなかったのは、残念だな。撮影中ずっと十人位と一緒にいたので賑やかだったし、みんなで一団となって作品を作っているといった感じだった。一旦撮影がスタートすると、「謎」めいた雰囲気を身にまとわなければいけないので、その辺りは僕らも神経を遣ったよ」

 映画のストーリーの種明かしはできないので、あまり突っ込んだ話はできないけど、作品はハッカー犯罪を扱っているし、ランベール自身は、このネット社会とどう向き合っているかをきいてみた。

 「自分なりに少し距離を置いている。そうしないといいものもあるけど、意味もなく中傷してくる暇人も多いからね。数日前もテレビ局で仕事で女装していて、そのままカフェにいったら、写真を撮られて嫌な目に遭ったからね。人間の空想力はどんどん喪失している。僕はひとりで空想して夢を見る方がいいな」

 ランベールは、フランスではもっとも顔の知れた男優なので、色々被害を被っているようだ。

 現在役者として、その頂点にいるといわれる円熟した演技のランベール・ウィルソンは、本作では血も涙もない冷徹な男、エリック・アングストロームを、見事に演じ切っている。「悪役ほど楽しい役はないからね」と笑っていたのが、印象的だった。

 ミステリー・ファンなら絶対に見逃せないこの「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」は、1月24日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント、新宿ピカデリーなどで封切られるそうだ。

 推理マニアには見逃せない一作といえる。

■映画情報
・『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』
1月24日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント、新宿ピカデリーほか全国順次公開
https://gaga.ne.jp/9honyakuka/

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(c)marie claire style/text: Kasumiko Murakami