【11月28日 marie claire style】今年の5月、私はカンヌ国際映画祭の授賞式の中継をテレビの前で固唾を吞んで見ていた。最高賞パルムドールの発表でステージに立つ審査委員長のアレハンドロ・G・イニャリトゥ(『バードマン』の監督)が、「パラサイト! ポン・ジュノ!」とコールした瞬間、私は思わずガッツポーズをしてしまった。 

 ポン・ジュノに初めて出会ったのは2007年だから12年も前になる。彼がオムニバス映画『TOKYO! 』の一編『シェイキング東京』の準備で東京に滞在していたときだった。共通の友人である通訳さんから、ポン監督が俳優の香川照之氏を映画に起用したいから紹介してほしいと言われたのだ。私はすぐに香川氏にコンタクトをとり2人を引き合わせた。一見おっとりとした熊のような可愛い風貌、映画マニアで漫画オタク、ユーモアがあって内面にはパンクな一面も持ち合わせ、時折眼光の鋭さをのぞかせる。そんな映画監督ポン・ジュノに私たちは魅了された。『殺人の追憶』『グエムル ‒漢江の怪物‒』など、ジャンルを飛び越えて多才さを披露する彼の奥深さをそこに感じていた。

 2年後、私が釜山を舞台にしたオムニバス映画『カメリア』に参加したときには、主演俳優のキャスティングが難航していた私に、韓国の名優ソル・ギョングを紹介してくれた。ポン・ジュノは律儀に恩返しをしてくれるようなナイスガイなのだ。

  寡作な彼はわずか長編7作目にして頂点を極めた。その最新作『パラサイト 半地下の家族』は正真正銘の最高傑作だと私は思う。常に韓国社会の底辺から物語を生み出してきたポン・ジュノは、全員失業中の一家にスポットを当てた。インパクトのあるキャラクターを生み出すのはお手のもの、漫画的なキャラの強さはあるがリアリティーを欠いたりはしない。その家族は半地下の狭い部屋に父母兄妹の4人で住み、宅配ピザの箱を組み立てる内職をしながらギリギリ生計を立てている。そんなある日、長男のギウが友人から家庭教師の仕事を紹介される。IT企業を経営する社長一家の高台にある大豪邸に向かうギウ。それをきっかけに貧困家族が富豪の家に寄生していく。貧富の差の激しい韓国社会を風刺しながら、笑いとスリルで巧みに観客を引きずり込むと、戦慄と驚愕の予測できないラストまで息もつかせない。考えぬかれた脚本は誰にも到達できない極致にあり、粘り強い演出で観る者を翻弄する。まさに超一級のエンターテインメント作品だった。

  名優ソン・ガンホをはじめ配役は完璧。漫画家級に絵が上手いポン監督は、緻密な画コンテを描き自らの演出を高みまで追い求める。ブラックコメディであり、スリラーであり、ホラーでもあるそれは、何にも似ていない"ポン・ジュノ"というスタイルだ。失業中の貧乏家族が富豪に寄生する話なのだと安易に想像していると足をすくわれる。パラサイトってそこだったのか!と膝を打ってしまった。これ以上は楽しみを奪ってしまいそうなので、肝心なところは言えないけれど、ラストシーンが私は好きだ。

■映画情報
・『パラサイト 半地下の家族』
2020年1月10日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー!

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回佂山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』、18年は岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』が公開。待機作として『窮鼠はチーズの夢を見る』と又吉直樹原作の『劇場』が2020年公開予定。

■関連情報
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada