【9月26日 marie claire style】人気作家・吉田修一の小説『犯罪小説集』を『64-ロクヨン-』の瀬々敬久監督が映画化した『楽園』は、犯罪を犯す人間の心理に迫る現代社会の闇を描いたサスペンス映画だ。実際に起こった事件に着想を得て書かれた、傑作小説『怒り』や『さよなら渓谷』などと同様、吉田修一は本作でも実際の未解決事件を下敷きにして、糸が捩れ絡み合うように、人と人の綾から生まれる人間の愚かさを浮き彫りにし昇華させた。未解決事件に関わった苦しむ人間の立場に立って、その苦悩を深い洞察力で物語として紡ぎ出す吉田修一の圧倒的な筆力に私はまたも脱帽した。

 田舎町のY字路で少女が消え、やがて遺体で発見された。犯人とされた青年(綾野剛)、行方不明になる直前まで被害者と一緒にいた少女(杉咲花)、孫を殺された老人(柄本明)、12年後にその村にUターンで帰ってきた養蜂家の男(佐藤浩市)は村八分にされる。そのY字路で起こった2つの事件に関わった人間のそれぞれの側面から、事件に翻弄された者たちの苦悩や憤りを描いた群像劇である。

 この映画の最も怖いところは、真実がねじ曲がっていく過程だ。その果てに被害者が加害者になってしまう。なぜ人は犯罪を犯してしまうのかという謎にメスを入れ、深く迫った。けっして犯罪者に加担してはいけないが、人間が人間を孤独にし、やがてその魂は行き場を失う。そして罪のない人が犯罪を犯すまでに追い込んでいくケースをこの映画は実証してみせる。

 そもそも瀬々監督はこれまでも社会の矛盾によって生まれた犯罪から人間の姿をあぶり出す力作を多く手掛けてきた。代表作でもある光市母子殺害事件をきっかけにして描かれた4時間38分にも及ぶ大作『ヘヴンズ ストーリー』や、実際の2つの殺人事件を基に女性の不可解さを描いた傑作『黒い下着の女 雷魚』など、瀬々監督は犯罪心理を描く匠である。監督が実際の事件を取り上げる時には必ず被害者側からだけでなく加害者側にも立って描かれる。その両方から見て、そこにある矛盾をどう捉えて、どんな答えを持てばいいのかを観客に提示してくる。その両義性を持つことで、真実をどう捉えればいいかを我々は問われるのだ。社会には不条理が蔓延していて、その中で生きる私たちは常にこの主人公たちと隣り合わせにあることを瀬々映画は突きつけてくる。なかなか難しいことだが、相手の立場になって考えないと真実は見つからないし、争いもなくならない。罪は人間が生み出していると、この映画を合わせ鏡として教訓を得る。数々の社会の闇と絶望を映画にしてきた瀬々敬久監督は、なぜこの映画に『楽園』というタイトルをつけたのか。最後に見せてくれる救いに、私はそれでも人は生きていくのだと実感させられた。

■映画情報
・『楽園』
10月18日(金)全国ロードショー

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回佂山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』、18年は岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』が公開。待機作として『窮鼠はチーズの夢を見る』と又吉直樹原作の『劇場』が2020年公開予定。

■関連情報
・ある船頭の話 公式HP:http://aru-sendou.jp
行定勲のシネマノート:アーカイブはこちら
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada