【7月26日 marie claire style】恋心というのは誰にも理解できるし、出会いや別れの経験の1つや2つはあるものだろう。その普遍性によって恋愛映画は芸術映画や社会派の映画に比べて、軽視されがちなジャンルだというのは偏見だろうか。しかし、恋愛映画は語り継がれている名作が多い。『ローマの休日』などが最たるものだ。最近観た2作の恋愛映画は、いずれも昨年と今年のカンヌ国際映画祭のコンペティションに選ばれた秀作だった。

 ひとつはフランス映画『グッバイ・ゴダール!』。『アーティスト』でアカデミー賞を受賞したミシェル・アザナヴィシウス監督の最新作である。『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』『軽蔑』などでヌーヴェル・ヴァーグの旗手としてフランス映画界に台頭した映画監督ジャン=リュック・ゴダールと、その当時の妻だった女優アンヌ・ヴィアゼムスキーの結婚から愛の終わりまでが描かれたユニークな作品である。稀代の天才監督に恋い焦がれる女子大生のアンヌ。超有名人で羨望される存在のゴダールは、革命に没頭し政治活動に傾倒していく。やがて、世が望むゴダールではなくなっていく彼を、それでも愛し抜く妻アンヌの恋路の果てが描かれる。この映画で描かれる恋愛は思いの外、凡庸である。身勝手な男とひたむきに愛し傷ついていく女というありきたりな構図の物語である。しかし、この主人公がジャン=リュック・ゴダールだと話は特別になる。自らの映画を否定してまで政治的な活動に舵を切るゴダール。彼はどんどん孤独になっていき、妻の浮気を疑い、愛し合っていたふたりの間に亀裂が入っていく。映画を無視して革命に生きるか、革命を捨て映画を撮るか。そんな矛盾した考えに悩まされるゴダールは嫉妬深い哀れな男に成り下がっていく。その堕ちていく姿に耐えられなくなる妻の愛の終わりは悲しい。あの天才でも恋愛の前ではどうしようもない人間の弱さを露呈してしまうのだから面白い。

 かたや日本映画界の新星、濱口竜介監督の『寝ても覚めても』は、何者でもない平凡な女の恋愛を描いているが、そこには特別な仕掛けが施されている。芥川賞作家の柴崎友香の小説を映画化した本作は、人の何を見てどこが好きで恋愛に陥るのかを考えさせられる映画だった。

 麦(ばく)という男に運命を感じた朝子。ふたりは恋人になり幸福な時間を積み重ねていた。ある日突然、麦は失踪する。数年後、朝子は大阪を離れ東京のコーヒーショップで働いていた。その届け先で麦にそっくりな男、亮平と出会う。朝子は戸惑うが、朝子に惚れた亮平の素直な姿に次第に惹かれていく。朝子は亮平のことが好きになり幸福がふたりに訪れるが、そこに失踪したはずの麦が現れる。

 人間は相手の何に確信を持って愛情を抱くのか。愛はいつも不確かでその感情は人間の面倒くさい部分であると思う。本作は抱いた恋心をいつまでも忘れられないという愚かさと、心変わりをするという愚かさが同時にやってくる。その人間の醜さから逃げていないことがこの映画の清さだと思った。シンプルで静謐な作りの映画だが、そこに表れる感情はかなり複雑で、観る者の考えを深くする。だから、心にコツンと響くリアリティのある映画になっているのだと思った。

 恋愛映画は、相手を愛し、時に傷つけながら、それでも自分の心と向き合おうとする人間の在るべき姿を描くことで、たくさんの人の心を動かすから面白いのである。

■プロフィール
行定勲(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひと サバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』。

■関連情報
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada