【3月29日 marie claire style】五感は魂に仕える従僕だ、といったのはダ・ヴィンチだっただろうか。魂を高めるには五感を研ぎ澄ます、ただその一言に尽きる、ということなのだろう。

 京都の茶人、木村宗慎さんは、恰幅のいいその風貌とは異なり、五感を細やかに極めた茶道家として一目置かれている。その著書『利休入門』『一日一菓』などは、まだ茶道をよく知らない若い人たちにも好評で、京都の古門前の稽古場には、カリスマ性をもつ師の人柄に魅かれて、遠方から多くの弟子が習いにくるという。

「最近は海外にも出かけて、年に4、5回は中国へいき、北京、上海、杭州、香港、台湾などで講演や茶会の機会を頂いています」

 本の執筆、雑誌やテレビの仕事、イベントの総合監修、それにもちろん稽古場でも教えていて、そうした過密スケジュールの中で、伝統的な茶道の「かた」をそのまま教えるのではなく、常にその未来にも心を配り、そこに時代を反映した新たなものを加味していくことに、心を砕いているという。

「茶道は400年間、ずっと変わらずにやってきたわけではないのです。いわば現代アートのインスタレーションといえるものです」

 また、「茶会を、英語でティー・セレモニーと訳すのは、どうもしっくりこない。岡倉天心がいっているように、『ティーイズム』がいいですね」とも語る。その方が美意識と本質主義が融合される感じで合っているのだという。

「外国の方と異なり、日本人だけがどうして小さな茶碗の中に宇宙をみたりするのでしょうね」と語りながら、そこからいつしか哲学的思索の道に入っていく。

 1976年に愛媛の宇和島市で生まれ、祖父の影響で歴史に興味をもち、裏千家で茶道を学び始めたという。神戸大学在学中、茶の道に入り、まだ学生時代の21歳の時に芳心会を設立して、その後、多くの弟子を抱えるようになる。その多岐にわたる活動を通して、伝統の世界に新たな風を吹き込んでいる。

「今年は奈良の老舗『中川政七商店』とのコラボで、奈良と東京にギャラリー、カフェ、茶道教室を兼ね備えた『茶論』を開く予定で、若い人たちに集まる場を提供するつもりです」

 伝統を背負いながらも、常に時代の先端を見据え、あえてアンチテーゼに挑むことで、次世代に繫ごうとしている。

「実は平成に入ってから、茶道を習う人口が3分の1に減っている」。その話題になった時だけ、表情が少し曇ったようにみえた。

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(c)marie claire style/photo: wataru yoneda/text: Kasumiko Murakami