【2月22日 marie claire style】俳優出身の映画監督は意外と多い。古くはチャールズ・チャップリンやオーソン・ウェルズも最初は役者からそのキャリアをスタートさせた。他にもアカデミー賞をとったロバート・レッドフォード(『普通の人々』)やクリント・イーストウッド(『許されざる者』)、そしてショーン・ペン(『クロッシング・ガード』)も、俳優としてだけでなく監督としても映画史に残っていくだろう。日本だと『マルサの女』などのヒットメーカーだった伊丹十三、ベルリン国際映画祭のコンペティション部門に選出された、海外での評価の高いSABUも俳優出身である。最近では『火花』が大ヒットした板尾創路も記憶に新しい。『レザボア・ドッグス』のクエンティン・タランティーノや『息もできない』の韓国のヤン・イクチュンは、キャスティングされないから自ら脚本を書き監督すると、その映画は大絶賛された。特にヤン・イクチュンは監督映画が注目されて以来、役者のオファーが殺到し、監督より俳優として有名になり、昨年は日本でも『あゝ、荒野』で見事な演技を披露している。

 そんななか、人気俳優の斎藤 工がついに監督デビューした。かねて彼は映画マニアで知られていたし、自らが運営する、"cinéma bird"という団体は、映画館のない場所に出向いて映画を上映するという素晴らしい活動をしている。そんな一面にも映画愛の強さが表れている彼が、「齊藤 工」名義で長編映画監督デビューしたのだ。映画のタイトルは『blank13』。

 13年前に借金を残し突然失踪した父(リリー・フランキー)が余命3ヵ月で見つかる。兄(斎藤 工)と弟(高橋一生)は母に苦労をかけた父を許せないでいる。しかし、弟はキャッチボールをしてくれた優しい父の記憶がどうしても忘れられず病院に会いに行くが、溝は埋まらないまま父は他界する。葬儀の日、わずかな参列者の証言によって、父が消えた13年間の知られざる真実の姿が浮かび上がっていくという物語である。

 決して派手な作品ではないが、生きていくとはどういうことなのかという根源に迫った切実さを感じた。人間というのは最期の別れのとき、自分とその人とのひとつの結び目を見つけ、それを信じようとするものなのだとしみじみ思わせてくれる映画だった。映画でしか表現できない、深淵を覗き込むような作品をオリジナルで創り出す。人間の命題にまっすぐに向き合う姿勢は素晴らしいと思った。

 斎藤 工とは何度か会ったことがある。彼が最初に受けた映画のオーディションは拙作『GO』だったらしい。失礼ながら私は憶えてなかったが、その彼が今俳優としても監督としても立派な映画人に成長したことはなんだか嬉しい限りだ。これからも活躍が楽しみである。

■プロフィール
行定勲
(Isao Yukisada)
1968年生まれ、熊本県出身。映画監督。2000年『ひまわり』が、第5回釡山国際映画祭・国際批評家連盟賞を受賞。01年の『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞を始め数々の映画賞を総なめにし、一躍脚光を浴びる。04年『世界の中心で、愛をさけぶ』は興行収入85億円の大ヒットを記録し社会現象となった。以降、『北の零年』、『春の雪』、『クローズド・ノート』、『今度は愛妻家』、『パレード』(第60回ベルリン国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『円卓』、『真夜中の五分前』、『ピンクとグレー』などを製作。17年は震災後の熊本で撮影を敢行した『うつくしいひとサバ?』、島本理生原作の『ナラタージュ』が公開された。最新映画は、岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』(18年2月16日公開予定)。

■関連情報
・blank 13 公式HP:www.blank13.com
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(c)marie claire style/selection, text: Isao Yukisada