【8月23日 People’s Daily】夕闇が迫り、貴州省(Guizhou)貴陽市(Guiyang)の老東門城壁に灯りが灯り始める。貴陽の歴史的ランドマークの一つである文昌閣の前で、ミュージシャンがギターを抱えて前奏を奏で始め「道端音楽会」が幕を開けた。
入場無料、ステージまでの距離はゼロ、商業的な要素は一切なし。2年前から貴陽の街角で続くこの音楽会は、現在までに400回以上開催され、誰もが参加できる音楽の祭典となっている。
実は「道端音楽会」は以前からの貴陽の伝統なのだ。1937年当時、民間の愛好家たちの音楽団体「筑光音楽会」が貴陽の街角で「抗日救国歌」を歌い始め、音楽の力で抗戦の精神を鼓舞したのが始まりだ。そして80年後の現在、文昌閣から甲秀楼まで、また黔霊山公園まで、地元の音楽家のストリートパフォーマンスは市民や観光客を惹きつけ、小さなコンサートのような雰囲気を醸し出している。地元政府の文化観光部門はこの潮流を捉え、23年に、散在するストリートパフォーマンスを「貴陽道端音楽会」という一つのブランドに統合した。市街地のランドマーク前などに会場を設置し、音楽愛好家たちにパフォーマンスの舞台を提供している。
雲岩区委員会宣伝部の張婷(Zhang Ting)副部長は「我々は異なるテーマで特別公演を開催している。例えば、貴州民族文化と組み合わせた公演や著名な音楽家を招いた公演、他の都市との音楽交流なども行っている。またもちろん、道端音楽会で長年の定番の『全員参加の大合唱』も続けている。一般の人は我々の公式プラットフォームにコメントを入れて参加を申し込むことができる」と説明する。
この音楽会は、年齢や職業を問わず、音楽愛好者が次々とステージに登るようになっている。ラッパーを目指す元気な少年・楊嘉逸(Yang Jiayi)さんが勇気を出してステージに上がり、ラップのリズムで観衆を揺れ動かしていた。また仕事の合間に歌の練習に励んだタクシー運転手・劉国紅(Liu Guohong)さんが力強い歌声を響かせ、観客が共に合唱していた。音楽は目に見えない絆となり、人びとを結びつけ、都市の文化生活をより豊かにしている。
「折耳根バンド」は貴州の地元バンドで、18年に結成された視覚障害者と健常者で構成されるグループだ。音楽への愛が彼らを結びつけた。「折耳根」は地元の人びとが愛する食材・ドクダミのことで、その地下茎は暗闇で育ち、生命力が強い。バンドのドラマー・陳昌海(Chen Changhai)さんは「このドクダミが私たちのバンドが伝えたい精神だ」と話す。
ある時「道端音楽会」のステージで「折耳根バンド」が誰もが知るポピュラーソングをカバー演奏すると、千人ほど集まっていた観衆がスマホのライトを点灯してステージを照らし、バンドといっしょに合唱を始めた。管楽器のメンバー・楊盼(Yang Pan)さんは「バンドのメンバーの中には視覚障害者もいたが、聴覚が非常に鋭敏で、彼らは観客がすぐそばにいる臨場感を強く感じ、ステージと観客が一体になったその喜びの雰囲気が非常な感染力を発揮した」と、その様子を話している。
「道端音楽会」が盛り上がる中、貴陽市の市民バンドも民族的な特色を持つオリジナルの音楽に注目し始めた。市民バンドの主宰者・李乾(Li Qian)さんは「貴州の民族楽器や歌唱技術は独特で、伝統工芸などの無形文化遺産もこの音楽によくマッチする」と話す。
彼らの紹介によると、現在までに80組を超えるバンド、1500人を超す音楽家が文昌閣の「道端音楽会」に出演し、10人余りの地元音楽家がこの音楽会を、自身のオリジナル作品の初披露の場として活用しているという。
小さな板椅子に座り、80年代生まれのショート動画のブロガー・鍾棠(Zhong Tang)さんは、スマートフォンをステージと観客に向け、道端音楽会の「映える」瞬間を撮影している。道端音楽会のニューメディアのボランティアとして、鍾さんはほぼすべての回に参加し「音楽を楽しみながら故郷を宣伝できる、まさに一石二鳥だ!」と話す。
ニューメディアのボランティアの募集は貴陽の「道端音楽会」の大きな特徴の一つだ。「参加条件は無し、参加したい人は誰でも参加できる」、鍾さんが所属する撮影チームには数百人のボランティアがいる。彼らのネット拡散のおかげで、73回の「文昌閣道端音楽会」の全インターネットの総露出数は、延べ50億回を超えたという。
「道端音楽会」はオンライン視聴者にも重点を置いている。雲岩区委員会の関係者は「ネット視聴者から『現場の照明が暗い』との指摘があり、次の回では照明板を追加した。『ネットが重い』との声には、通信会社と連絡して問題解決した」と現場の苦労を話す。「道端音楽会」の会場は千人以上が収容可能だが、そのほかに多くの人たちはネット配信で視聴しており、その人たちの感想もまた同じように重要なのだという。
貴陽市では現在まで、すでに400回余りの「道端音楽会」が開催され、延べ300万人以上の観衆が来場し、7万人以上の市民や観光客が「道端音楽会」のステージに立っているという。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews