バイオニックの手足を装着、音楽やスポーツを楽しむ・中国

06月12日 12:00


スマートバイオニックハンドを装着して電子ピアノを演奏する周鍵さん(提供写真)。(c)Peopleʼs Daily


【6月12日 Peopleʼs Daily】浙江省(Zhejiang)杭州市(Hangzhou)余杭区(Yuhang)の「人工知能タウン」にある浙江強脳科技(Zhejiang Qiangnao Technology、以下「強脳科技」)のオフィスに入ると、周鍵(Zhou Jian)さんがパソコンの前でキーボードを叩き、原稿を執筆していた。よく見ると、右手にはアルミ合金製のスマートバイオニックハンドが装着されていたが、タイピングの速度は健常な左手と遜色のない速さだった。

 周鍵さんは12歳の時、事故で右手を失った。それで彼は、最も基本的な動作から始め、片手での生活を学習しなければならなかった。

 2022年に大学を卒業した後、周さんは公益プロジェクトの支援を受け「強脳科技」が開発したスマートバイオニックハンドを使用するようになった。

「それまでの義手は機能が一つしかない単なる装飾品に過ぎないようなもので、結局は使わなくなった。今のスマート義手を使っていると、まるで10年前に失った右手が戻ってきたようだ」、周鍵はそう言いながらオレンジを手に取り、皮をむき始めた。

「この製品を装着すると、まず腕を差し込んだ筒の内側の電極が私の様々な動作の時の筋肉電気信号と神経電気信号を収集する。私が何か特定の動作をしたいと考えた時、このスマート義手は収集した信号から私の運動意図を判断し、対応する手の動作を実行する。繰り返し練習することで、自由に使えるようになる。ドアを開ける、物を運ぶ、握手をするなどの動作はすでに習慣になった」、周さんはこう説明する。「以前は荷物を持って高速鉄道に乗る時には他人の助けが必要だった。今では私が他人の荷物運びを助けることもできる」と話す。

「強脳科技」の創業者・韓璧丞(Han Bicheng)氏は、「海外では脳内にブレイン・マシン・インターフェース用チップを埋め込む技術を採用しているが、我々は生体を傷つけない非侵襲的なブレイン・マシン接続技術を採用している。開頭手術が不要でリスクが低いが、難点は皮膚の信号が非常に微弱なことだ。センサーとアルゴリズム能力のブレークスルーを絶えず繰り返して、微弱な筋肉の電気信号や神経の電気信号を収集し、脳が伝える運動意図を『翻訳』し、手の運動を正確に制御しなければならない」と説明した。

 電極材料の配合と構造設計の段階だけで、同社は千回以上の試行錯誤を重ねたという。
 
 同社はスマートバイオニックハンドの量産化に成功し、その市場価格は10万元(約198万6000円)台となり、海外の同類の製品価格の7分の1から5分の1のコストを実現した。直接カスタマイズして、購入、装着することが可能だという。

「強脳科技」の研究室では、緊迫した雰囲気の中で次世代のスマートバイオニックハンドのテストが行われていた。この新製品は人間の手の形にさらに近づき、圧力や温度センサーを内蔵しており、動作の精度と柔軟性が向上しただけでなく、相手の手のひらの温度も感じ取ることができるという。
 
 ランニングシューズを履き、運動パンツを着用した26歳の林韵(Lin Yin)さんは、大好きなジョギングをしている。遠くから見ると、姿勢が良く、軽快な走りだ。しかし、パンツの裾を捲ると、右の大腿部から下は「強脳科技」のスマートバイオニックレッグを装着していることがわかる。

 短距離走に才能があった林さんは、中学3年生の時にスポーツの成績で地元の重点高校に優先合格を果たした。ところが、不幸にも高校入試から3日後に事故で右足を失った。従来の義足では十分な支持力がなく、草地や砂地などの複雑な路面に対応できず、週に2、3回は転倒していた。時間が経つにつれ、彼は外出を避けるようになった。
 
 その後林さんは「強脳科技」の支援を受け、スマートバイオニックレッグに交換した。価格はやはり十数万元(10万元は約198万円)で、海外の同類製品価格の約5分の1ほどだ。

「スマートバイオニックレッグは着地時の支持力と抵抗力を、シーンに応じて柔軟に調整できる」と話す。

 リハビリテーション療法士の支援を受けて、彼は幼少期の歩行の記憶を取り戻し始めた。自由に力を発揮し、大胆に歩けるようになり、転ぶ心配がなくなった。

 林さんの説明によると、スマートバイオニックレッグが内蔵のセンサーシステムでユーザーの歩行データをリアルタイムで収集し、アルゴリズム処理後に制御指令に変換し、油圧システムを動態調整することで、様々異なる運動状態にスマートに適応できるという。

 繰り返し訓練を重ねた結果、彼の歩行は健常者とほとんど区別がつかなくなった。

「風が頬を撫でる感覚は、本当に言葉では表現できない」、スマートバイオニックレッグを装着した林さんは、再び「走り」始めた。

 スマートバイオニックレッグは、異なるモードを設定することで、異なる抵抗力と支持力を提供するので、多様な動作が可能になる。

 現在、周さんはフィットネスやロッククライミングだけでなく、サーフィンやパラシュートジャンプにも挑戦している。将来の目標は、自らの力でエベレスト登頂を果たすことだ。

 近年「強脳科技」は各地の障害者連合会や財団などと協力し、条件に合致した障害者に対し、極低価格または無料でスマートバイオニックの手や脚を提供している。

「ブレイン・マシン・インターフェースは医療、リハビリテーション、そして次世代のブレイン・マシン・インタラクションなどの分野で巨大な発展の可能性を秘めている。我々は技術と人工知能、ビッグデータ、クラウドコンピューティングなどの領域を融合したイノベーションを加速し、さらに多くの様々な製品ラインを開発し、異なる層の人びとにパーソナライズされたサービスを提供し、生活の無限の可能性を開拓していく」、 韓氏はこのように抱負を述べた。(c)PeopleʼsDaily/AFPBBNews