サッカーから音楽へ シャペコの生き残りが見つけた新たな人生

11月29日 16:21


ブラジル・サンパウロの病院でリハビリに励むジャクソン・フォルマンさん(2017年2月23日撮影)。(c)Nelson ALMEIDA / AFP


【11月29日 AFP】ジャクソン・フォルマン(Jakson Follmann)さんは、飛行機のエンジンが止まり、目の前が真っ暗になった瞬間を今でも覚えている。その後の激痛と、降り注ぐ雨の冷たさも。

 もうろうとした意識の中で、フォルマンさんは助けてくれと声を上げ、やがて機体の残骸のすき間から、懐中電灯の光が差し込むのが見えた。

 ブラジルのサッカーチーム、シャペコエンセ(Chapecoense)の面々を乗せた飛行機の墜落事故から、28日で5年がたつ。フォルマンさんらを乗せたチャーター機は2016年、コパ・スダメリカーナ(2016 Copa Sudamericana)の決勝へ向かう途中に燃料切れを起こし、コロンビア第2の都市メデジン(Medellin)近郊の山岳地帯で墜落した。

 事故では71人が命を落とし、フォルマンさんは6人の生き残りの一人となったが、右脚の膝から下を失った。突然サッカー選手としてのキャリアを絶たれたかつてのGKは、そこから必死に人生を立て直し、29歳になった今、講演活動とブラジルのカントリー音楽「セルタネージョ」に新たな生きがいを見いだしている。

 フォルマンさんはAFPによるインタビューで「子どもの頃、自分には二つの大きな夢があった。最初はサッカー選手になることができて、あのような運命が訪れたが、今は音楽のおかげで第2の夢を生きている」と話した。

 墜落事故では13か所の骨を折り、そのうち二つは頸椎(けいつい)骨折という重傷で、2か月の入院生活を送った。それでも現在は、セルタネージョで4枚のシングルを出すことができている。乗り越えられたのは、音楽とキリスト教のおかげだという。

「事故の後、自分には二つの選択肢があった。じっと座って自分の境遇を嘆くか、それとも顔を上げて人生に向き合うか」と話すフォルマンさん。彼が選んだのは後者だった。

 右腕には、シャペコエンセのユニホームを着た自身が義足を着けて階段を上り、空には大きなハトが飛んでいるタトゥーを入れた。2019年までには十分に回復し、ミュージシャンを発掘するリアリティー番組に挑戦すると、ただ参加するだけでなく、セルタネージョの楽曲で観覧客の心をつかみ、優勝を果たした。

 ミュージシャンという新しい仕事は、サッカー選手と似ているところがあるという。「サッカー選手は毎日練習する。それは音楽も変わらない」とフォルマンさんは話す。

 新しい目標もできた。フォルマンさんは「多くの人に手を差し伸べたい」と語り、「音楽には人生を変える力がある。僕が音楽のおかげで生まれ変われたようにね」と続けた。(c)AFP/Lujan Scarpinelli