高校無償化で注目の朝鮮学校、その歴史と実態

04月15日 18:14


都内の朝鮮学校での授業風景(2010年3月10日撮影)。(c)AFP/TOSHIFUMI KITAMURA


【4月15日 AFP】机に向かう30人の生徒たちを、北朝鮮の故金日成(キム・イルソン、Kim Il Sung)主席と金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong Il)総書記の肖像写真が額縁の中から見下ろしている。男子生徒は濃紺のブレザー、女子生徒はチマチョゴリ姿。教室の壁には朝鮮半島の地図が掛けられ、半島をめぐる戦争の歴史を教師が説明している。   まるで平壌(Pyongyang)の学校と見紛う光景だが、ここは東京都内の朝鮮学校だ。北朝鮮の事実上の大使館である在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連、Chongryon)が運営する、都内に10校ある朝鮮学校高級部は、高校無償化法案が前月16日に衆院を通過したのを機に注目を集めることとなった。  というのも、約2000人の生徒たちが学ぶ朝鮮学校は、当面は無償化の対象外とされたためだ。判断先送りをめぐり中井洽(Hiroshi Nakai)国家公安委員長は、ミサイル発射実験や核実験を実施して国際社会から孤立し、日本と国交もない北朝鮮との関係が深い学校を政府が助成すべきではないと主張。「拉致した人を返してもらわないといけない」と語った。 ■「普通の市民」と在日の母親ら  全国の朝鮮学校に通う生徒の母親ら300人は3月、都内で集会を開き、日本政府に対し平等な扱いを訴えた。 「私たちは、普通に日本に住んでいる市民なんです。ただ、民族のアイデンティティを保ちたいと思っているだけ」と47歳のある母親。「朝鮮籍というのは、北朝鮮国籍とは違う、ということを皆に分かってほしい。私たちは、戦争前の南北に分かれる前の朝鮮半島出身の民族の子孫なのです」  北朝鮮国営の朝鮮中央通信(Korean Central News Agency、KCNA)は、大阪と京都でも行われた母親らのデモの様子を繰り返し報じ、労働新聞(Rodong Sinmun)の記事を引用して、「日本に特有の愛国主義的な政策であり、(北朝鮮に対する)昔ながらの悪意に満ちた敵対政策の産物」と激しく非難した。 ■朝鮮学校とは  朝鮮学校の設立は、日本が朝鮮半島を植民地化したことに端を発する。植民地時代に日本に強制連行されたり移住した朝鮮人の多くは、1950~53年の朝鮮戦争や南北分断という苦難を故国が味わう間、日本にとどまった。約30万人が日本国籍を取得した一方、残る60万人とその子孫たちは日本に帰化せず、在日韓国・朝鮮人として暮らす。  このうち韓国籍を取得しなかった在日朝鮮人の中には、金正日体制への忠誠を誓っている者も少なくない。  朝鮮総連はウェブサイトで「朝鮮学校の教育目的は、すべての同胞子女たちをチュチェ(主体)の世界観と民族的素養、『知・徳・体』をかねそなえた真の朝鮮人として、自分の祖国と民族の繁栄、同胞社会の発展のために寄与し日本や国際社会でも活躍できる、有能な人材を育成するところにある」としている。チュチェ思想とは、故金日成主席が提唱した自立のための哲学のことだ。  ただ、東京朝鮮中高級学校の鄭燦吉(チョン・チャンギル、Chong Chang Gil)教務部副部長は、「私たちの学校の教育は、日本の高校の指導要領に準じており、日本の高校とほとんど同じカリキュラムで教えています」と話し、唯一の違いは授業がハングル語で行われることと、日本の教科書ではほとんど触れられない朝鮮独立の立役者たちについて教えていることだけだと説明した。  朝鮮学校を視察した橋下徹(Toru Hashimoto)大阪府知事は、金総書記らの肖像を取り外すことを学校側に求め、「北朝鮮の国家体制と朝鮮総連との関係について、学校側は一線を引いてほしい」と要求している。(c)AFP/Kyoko Hasegawa