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CAR 2021.2.6 

新しいレクサスの始まりを予感させる新型LS

2017年のデビューから3年。レクサスのフラッグシップ・モデル、5代目LSに大幅なフェイスリフトが施された。その新型LSの走りはどう変わったのか。ジャーナリストの島下泰久氏とENGINE編集長の村上 政が語り合った。

初代LSへの“原点回帰”

村上 今回のLSは2017年秋にフルモデルチェンジした5代目のマイナーチェンジ版ということですが、マイチェンとしては相当がんばってやってきた感じがある。

島下 そうですね。見た目はヘッドライトの形状が少し変わったり、モールが黒くなったりというくらいですが、中味には大がかりな変更が加えられています。

村上 乗ってみて、すぐにそれがわかるくらいに違っていた。

島下 実は登場1年目、2年目の年次改良でも細かく手が加えられていたんです。

村上 いわゆる、レクサスが言うところの“オールウェイズ・オン”ですね。

島下 率直に言って、2017年にデビューした時に、かなり否定的な声が出たことは耳に届いていたと思うし、これではダメだという声が、なによりも中の人たちから上がっていた。

村上 それで、相当な力を入れてフラッグシップ・モデルがどうあるべきかを考えてやってきた。その結果がどうだったか、とういうのが今回の最大の注目点ですね。

島下 で、どうでした、村上さんは?

村上 実は2017年に新型に初めて乗った時、僕はまさに「焦点はどこに?」というタイトルの記事を書いているの。というのも、その直前に出たLCはラグジュアリーなドライバーズ・クーペとして焦点がバチッと絞れたモデルだった。それで同じプラットフォームを使うLSに、とても期待していた。ところが乗ってみると、残念ながらLCのようなものではなかった。ドライバーズ・カーとしての走りを追求しすぎたために、逆に乗り心地が悪くなったのかなとも思ったし、いや、そうはいっても、ドライバーズ・カーとしてもまだまだやり切れていない、とも思った。それでよく考えてみて、やはりLSの味付けを決めていくのはとても難しいんだな、と思わざるを得なかったわけ。LCのようにごく限られた人をターゲットにしたクルマに比べて、ショーファードリブンで使う人からオーナードライバーまで、あらゆる要望を1台で実現しなければいけないのだから、そりゃ、無理難題に近い。

島下 外からだけじゃなく、内部からだって、いろいろな声が飛んでくるでしょうからね。これまでの流れを重視して、LSこうあるべき、という人もいるだろうし、いや、このままではユーザーが高齢化していくばかりだから、もっと若返りを図らなければという人だっているでしょう。その結果、変えないものと変えるものがどうあるべきなのか、わからなくなってしまっていたのだと思いますね。新技術も入れなければいけないし、燃費も良くしなければならない、走りも良くしなければダメ、と言っているうちに、本当にやらなければいけないことが曖昧になってしまった。

村上 で、その時に、もう一度冷静になって自分たちが目指すべきものをじっくりと考え直した時に、レクサスの中で出てきたのが“原点回帰”だった。すなわち、1989年の初代LSが持っていた良さはなんだったのかを考えた時に、やっぱり、“乗り心地”と“静粛性”が一番大事だよね、ということになったのだと思います。その点でいうと、今回のLSは相当がんばったと思う。乗り心地については、Fスポーツはともかく、エグゼクティブやバージョンLについては見違えるほど良くなったし、静粛性についても、単に遮音材を増やしたとかいうのではなく、たとえばエンジンをモーターのアシストも含めてどういう回転数でどう使わせるかというところまで考えて、その結果、常用域での静けさを実現するというような手の込んだことまでやっている。そのあたりの出来映えはかなりのものです。

ハンドルとセンターコンソールのスイッチ類をブラックで統一し、端正な印象を強調したインテリア。マルチメディア・システムには新たに12.3インチのタッチワイドディスプレイを採用し、利便性を向上させている。

エンジンの中身を総とっかえ

島下 そうですね。LCとLSのハイブリッド・モデルは基本的に同じハードウェアですが、LCではレスポンスを良くするために使った電気モーターを、LSではエンジンをかけない方に使って静粛性を向上させたりしている。でも今回、僕がハイブリッド以上にビックリさせられたのはV型6気筒3.5リッター・ツインターボのLS500のエンジンの方で、なんとスペックはなにも変わっていないのに中身はすべてといっていいくらいに変えてきた。クランクシャフトの径を太くして、コンロッドもピストンも変えて、という具合で、その結果明らかに音が丸くなっている。前のエンジンは高速燃焼ゆえのキンキン、カンカンという耳障りな音がしていたのが、今回はスポーティなエンジンとして聞いていて気持ちのよい音になっていた。最初からこうだったら良かったのにと言いたくなるくらい素晴らしいエンジンです。

LS500に搭載される3.5リッターV6ツインターボ・ユニット。燃焼室やコンロッドの形状の最適化からクランクシャフトのピン径の拡大まで、ありとあらゆるところに手を入れて、出力特性、燃費性能、静粛性の向上を図っている。

村上 3年で新開発のエンジンを総とっかえしてくるなんて、普通だったらあり得ない。

島下 結局、これまでもユニットごとの性能は良かったと思うんです。たとえば、シャシーはしっかりしていてハンドリングはいいとか、パワートレインも燃費やドライバビリティの点で見たら十分なものになっているとか。でも、クルマって単品がいくら良くてもダメで、そのいい材料を使って全体としてどこを目指すのかがハッキリしていないと、素晴らしい製品にはならない。その点がまさに“焦点はどこに?”という感じだったのだと思います。

村上 それをもう一度“原点回帰”という言葉でやり直した時に、かなり焦点が見えてきたということなんだろうね。

島下 たとえば、エンジンをその焦点に合わせて見た時に、性能は出ているかも知れないけれど、この音ではダメだよね、ということになった。本当はなにか作りたいものがあって、そのために技術を使うのでなければいけないのに、当時は、技術はあるから、それじゃあそれを合わせて何を作ろうかということになっていたのだと思いますね。

村上 本当にクルマづくりというのは難しい。とりわけ、ブランドの象徴となるフラッグシップというのはね。料理と同じで、いろいろな人の好みを全部聞いていたら、いくら素材が良くてもいい料理はできない。やはり、シェフの存在というのが大事だと思うんだよね。

島下 2018年頃のレクサスって、クルマだけじゃないよウチ、って感じをすごく出していた。ライフスタイルの中にクルマがあるブランドだというのを強調していた。でも、やはりその中心にあるのはクルマであって、クルマがしっかりしていなかったらライフスタイルを強調してもアピール力はない。その点がレクサス全体として少しぼやけていたような気もします。それが今回、“原点回帰”という言葉とともにクルマ中心に戻ってきたというのが大きいのではないでしょうか。

Fスポーツ専用の本革とウルトラスエードを組み合わせたスポーツ・シート。フラッグシップ・モデルに相応しい高級感と快適性に加えて、高いホールド性も実現している。

足すクルマづくりと引くクルマづくり

村上 その結果、焦点はかなり合ってきた。だから相当がんばったな、というのは乗ればすぐにわかる。乗り心地も静粛性も、そのくらい変わった。でも、その一方でまだまだやれることはあるんじゃないかなという気もするんだよね。というのは、やはり今でも、レクサスはどんどん足していくクルマづくりをしているように思う。逆に、もっと引いていくクルマづくりを考えてもいいんじゃないかと思ったりするわけ。

島下 どういうことですか?

村上 何が言いたいかというと、たとえばFスポーツをあんなにスポーティに仕立ててくる必要があるのかな、と思うの。実は先代の時には、ここまで足を固めてドライバーズ・カーにしたいんだったら、いっそFスポーツの方がいいと思っていたんだけど、今度のは全体として乗り心地と静粛性を上げてきたにもかかわらず、Fスポーツについてはさらにスポーティな走りを実現するべく、これでもかとばかりに技術を投入してきた。後輪操舵あり、可変スタビライザーありで、電子制御バリバリの走りのモデルになっている。だいたい、ステアリング・ホイールの握りの径も太くしてあるし、パワステの操舵フィールもすごく重くしてあって、LSでここまでやる必要があるのかな、と思っちゃった。

島下 なるほど。ラグジュアリー・カーにとってスポーティとはなにか、あるいはラグジュアリーなドライバーズ・カーとはなにか、という命題には、ドンピシャの答えの見本がありますね。先日乗った新型ロールス・ロイス・ゴースト。あれは見事なまでに完成されていた。

村上 そう。僕も今日はロールス・ロイス・ゴーストの話を持ち出すことになるのかなと思っていたの。というのは、やはり、ラグジュアリー・カーであり、かつドライバーズ・カーの要素を持つクルマとを考えた時に、ゴーストというクルマはその究極だと思うんだよね。ゴーストがすごいのは、別にスポーツ・モデルという設定があるわけじゃないし、クルマの中にスポーツ・モードの切り換えスイッチがあるわけでもない。ギアのシフト・パドルがあるわけでもなければ、そもそもDレンジに入れたら、ロー・ギア以外には自分で選択できるものはなにもない。にもかかわらず、もちろんすごくラグジュアリーで乗り心地がいいし、静粛だし、それでいて驚くほどスポーティだと感じさせるハンドリングの良さがある。

島下 LSのFスポーツに比べるとゴーストはもっとロールするわけですが、ロールス・ロイスはそれでいいと思っているわけですね。自分たちがいいと思うものを提供しているので、その走りを味わってくださいと主張している。お客さまの欲しいものはなんでも揃っています、というのが本当にラグジュアリーなのかどうか、ゴーストのようなクルマを見ると考えさせられてしまいますよね。

村上 だから、なんでも足していくのではなく、引いていくことが必要なんじゃないかと言うのはそういう点なんです。確かに、今回のLSは焦点が絞れて良くなったけれど、もっと焦点を絞るためには、ISならともかく、LSにはFスポーツなんて必要ない。ハイブリッドと内燃機関のふたつのモデルがあれば十分なんじゃないか。そしてその中に、レクサスの考えるラグジュアリーもスポーティも入っていれば、それでいいと思うんです。

島下 FスポーツはLSには要らないでしょうとレクサスに言えば、いやいやお客さまが欲しいとおっしゃるんです、という答えが返ってくるでしょう。じゃあ、お客さまが欲しいと言えばなんでもつくるのですか、ということですよね。今後、SUVが欲しいと言われたら、LSのSUVをつくるんでしょうか。それがプレミアム・ブランドと言えるのでしょうか。それよりも、ウチはこうなんで、という主張を持ってもいいのではないのかというのを、ゴーストに乗っていると考えさせられますよね。静かで滑らかなのはいいんです。でも静かで滑らかだからなに、っていう主張がないと、プレミアムとは言えないように思いますね。

村上 そう考えていくと、レクサスが原点回帰という初代LSの静さと乗り心地の良さは、むしろ結果であり、もともとやりたいことがあって、それをやってみたら結果としてそうなったということだと思うんですよ。自分たちのやりたいクルマをつくってみたら、その結果が乗り心地と静粛性に現れたということであって、その前にこういうことやりたいというスピリッツというか、その理念まで原点回帰しないとダメなんじゃないかと思いますね。

島下 電気自動車がどんどん出てくる時代にあって、静粛性だけでは人を幸せにすることはできません。それでなにがしたいのか、という新しい価値観を打ち出していくことが求められていると思いますね。

9.5インチのゴルフバック4個を収納可能な480リッターの容量を持つラゲッジルーム。バンパーの下で足を動かすことで開閉できるハンズフリー・パワー・トランクリッド機能も装備する。

安すぎる!? 銀影ラスター

村上 いろいろ言ってきたけれど、今度のLSのデキが素晴らしいことは間違いない。さすが日本のトップ・メーカーのトップ・モデルというのは、こんなにつくり込んでくるんだと感心させられた。

島下 特に500のエグゼクティブなんかは、たいしたものだと思いました。

村上 ドライバーズ・カーとして使うのだって、Fスポーツじゃなくて、こっちでいいじゃん、と思ったよ。

島下 実は僕もそう思って、自分も歳を取っちゃったのかなと思ったんですが(笑)、そうじゃないですよね。

村上 あっちの方が素のハンドリングの良さというのが感じられる。別に速く走るのだけがスポーティなわけでもないし、気持ちいいわけでもない。常に自分とクルマが対話できて、かゆいところに手が届くというか、クルマと自分の思っていることが一致することがスポーティさだと思うわけ。

島下 実は本質的なスポーティさはあっちの方にあるのかも知れない。そうなんですけどお客さんが欲しがるんで、と言っていたら永遠に変われない。ラグジュアリーとはなにかを本当に考えましょう。本当にFスポーツやスポーツ・モードが必要なのか。そこまで考えないと本当のラグジュアリーにはなれないと思います。

村上 だから、ただ静さや滑らかさを追求するだけではなくて、レクサスが考える静さはこういうものだとか、滑らかさはこんな感じだというのを打ち出さないといけない。たとえば、ロールス・ロイスは完全に無音にすると却って居心地が悪くなるから、少しわざと音を入れているというのですが、それはロールス・ロイスの考える静粛性ですよね。そういう独自の哲学を持つことが重要なのだと思います。

島下 いま、レクサスならではの味の方向性が見え始めているだけに、そこを言いたくなってしまいますよね。

村上 もう、かなり機械的にはいいところにいっている。だからこそ、電子制御で何かを加えていこうというのではなく、エンジンの素性なり、シャシーの素性なりを究めていくことによって自分たちの味を追求していってもらいたいと思う。ボディ剛性だってすごいですよ、これ。もう不満はない。

島下 タイヤもランフラットを進化させてきているし、意地とかプライドというものが感じられますね、今回。

村上 このLSをこれだけつくり込んだことによって、これからレクサスがやるべきことが見えてきたのではないかと思う。ここまでくれば、次はなにか飛び抜けていいものが出てくるのではないかという予感がする。これが新しいレクサスの始まりじゃないか、という気がします。とにかく、やれることはすべてやってきているという感じがある。

島下 部分部分で見たらすごいところがたくさんあります。銀影ラスターというボディ・カラーなんてビックリしました。アルミフレークを高密度で敷き詰める技術だそうで、見た目ほとんど鏡のように滑らかで。あれが33万円なんて安すぎでしょう。輸入車だったら150万円くらいつけるんじゃないか。そうしないと世の中に価値が伝わらないんじゃないかと、半ば本気で思います。必ずしも高くするべきだと言うわけではないですが、適正価格というものをレクサスは考えてもいいんじゃなんてことまで、思ってしまいました。

今回の撮影車のボディ・カラーは新たにオプション設定された「銀影ラスター」。光輝材(アルミフレーク)を含んだ塗料の体積を凝縮させる「ソニック工法」なるものを応用した最新の塗装技術を駆使して、鏡面のような滑らかな質感を実現している。

話す人=島下泰久+村上 政(ENGINE編集長、まとめも)

写真=柏田芳敬

■レクサスLS500エグゼクティブ
駆動方式  エンジン・フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 5235×1900×1450mm
ホイールベース 3125mm
トレッド(前)  1630mm
トレッド(後)  1635mm
車両重量 2230kg
エンジン形式 直噴+ポート噴射V6DOHCツインターボ
排気量 3444cc
最高出力 422ps/6000rpm
最大トルク 600Nm/1600-4800rpm
トランスミッション 10段AT
サスペンション(前後) マルチリンク/ エアスプリング
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前) 245/50R19
タイヤ(後) 245/50R19
車両本体価格(税込み) 1529万円

■レクサスLS500 Fスポーツ
駆動方式  エンジン・フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 5235×1900×1450mm
ホイールベース 3125mm
トレッド(前)  1630mm
トレッド(後)  1615mm
車両重量 2200kg
エンジン形式 直噴+ポート噴射V6DOHCツインターボ
排気量 3444cc
最高出力 422ps/6000rpm
最大トルク 600Nm/1600-4800rpm
トランスミッション 10段AT
サスペンション(前後) マルチリンク/ エアスプリング
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前) 245/45RF20
タイヤ(後) 275/40RF20
車両本体価格(税込み) 1234万円

(ENGINE WEBオリジナル)

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